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【感想&解説】『わが投資術-市場は誰に微笑むか』を読んで

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『わが投資術-市場は誰に微笑むか』簡単解説

『わが投資術-市場は誰に微笑むか』は、「割安な小型株を発掘して資産を築いてきたファンドマネージャーの運用方法が明かされた本」です。

筆者の清原達郎さんは、1500億円を運用するファンドマネージャーとして働き、個人資産は800億円超で長者番付1位にもなった方です。現在は一線から退き、投資人生を通して築いてきた手法を後世に残すべく、本書を執筆されました。

投資手法は「割安小型株への集中投資」で、市場で放置されている超割安株を「ネットキャッシュ倍率」という指標で発掘していきます。

「新NISAなど株式投資に興味がある方」、「バリュー株投資を実践してみたい方」にオススメの本です。

PER・PBRの問題点

人気の投資手法の一つとして、「バリュー株(割安株)投資」が盛んになっています。バリュー株投資とは、「安く買って、株価が適正水準に戻った時などに売る手法」です。

割安・割高を計る有名な指標としては、PER(株価利益率)PBR(株価純資産倍率)などが挙げられます。しかし、これらにはそれぞれ問題点が潜んでいると筆者は指摘します。

PERの問題点

実績PERは、「時価総額÷前期の純利益」で算出されます。

例えば、実績PER=5倍とは、「このまま今の利益水準が続くと仮定すると、あと5年で時価総額と同じだけの現金が積み上がる」ことを意味します。「利益が全て配当金として支払われるならば、5年で投資元本が倍になる」とイメージしても良いでしょう。

PERで注意すべきは、PERは「今の利益水準が将来も続く」と仮定している点です。今は実績PER=5倍で割安だと思っていても、来年に利益が半分になれば、PERは10倍に跳ね上がってしまいます。

PBRの問題点

また、PBRは「時価総額÷純資産」で算出されます。

PBRで注意すべき点は、会社が保有する資産は「簿価(=評価額)で計算された値」となっている点です。

例えば、ある製品で年間100億円の利益が出ていたとします。その企業は、製品を製造する工場や設備一式を合計1000億円の資産価値と評価していました。

次の年、競合他社が市場に参入してきてしまい、年間利益は100億円から10億円に減少しました。競争が激化しており、年間利益100億円にV字回復できる見込みはありません。その企業は、工場や設備一式の資産価値を100億円に下方修正するかもしれません(減損損失)。

PERやPBRは、「現在の利益水準や資産状況が今後もしばらく続く」という仮定の上に成り立っており、将来の不確実性が考慮されていない点は、あまり認知されていないのではないでしょうか。

企業の”本源的な価値”

筆者はPER・PBRの問題点を指摘した上で、次のように述べています。

従って、見るべきは会社が赤字になろうがなるまいが同じ値段で売れる資産がどれほどあるかということです。

『わが投資術-市場は誰に微笑むか』(講談社)102ページ

「会社が赤字になろうがなるまいが同じ値段で売れる資産」としては、例えば「現金」があります。このような資産はまとめて『ネットキャッシュ』と呼ばれます。

ネットキャッシュ=流動資産(現金など)+投資有価証券×0.7-負債  ※投資有価証券は保守的に見積もるために×0.7とする

もし、時価総額100億円の会社が100億円分のネットキャッシュ(現金同等物)を保有していた場合、その会社を買収できれば、実質タダでその会社の所有権が得られる上に、固定資産(工場や設備)と事業まで無料で付いてきます。

ネットキャッシュを時価総額で割った値は『ネットキャッシュ倍率』と呼ばれ、割安度合いの指標となります。

ネットキャッシュ倍率=ネットキャッシュ÷時価総額

ネットキャッシュ倍率が1以上の会社は、将来の事業の良し悪しに関係なく、今すぐ買収して事業を精算すれば”確実に”儲かる企業ということになります。「そんな会社ある訳ない!!」と思うところですが、筆者がファンドマネージャー時代にスクリーニングしたところ、日本にはネットキャッシュ倍率1以上の小型株がなんと300社以上もあったそうです。

PER・PBRは「現時点での評価」に応じて算出されるため、将来的にその企業の評価が変われば、大きく変動していく指標です。一方で、ネットキャッシュ倍率は企業の現在評価に関係なく、その企業の”本源的な価値”を如実に表しています。

ここで、具体例を使ってイメージしてみます。ネットキャッシュ倍率=1、PER=5倍の会社があるとします。利益がずっと横ばいを続け、配当を出さなかったとすれば、ネットキャッシュ比率は5年間で2に倍増します。そんな企業が市場でずっと無視されるはずないですよね。どこかで極端な割安さが是正され(もしくは、増配や自社株買いが発表されて)、株価は上昇を始める、というわけです。

ネットキャッシュ倍率の注意点

ネットキャッシュ倍率を用いた割安性評価にも注意すべき点があります。例えば、鉄鋼・重工業などの重厚長大産業は、設備維持・更新のために多額のお金が必要となる業種です。

企業が「株主還元」ではなく「将来の設備投資」のためにキャッシュを貯め込んでいるとするならば、たとえネットキャッシュ倍率が高くても、増配や自社株買いはあまり期待できないかもしれません。

企業のビジネスモデルと合わせて比較検討すると、より明確に割安性を評価することができます。

さいごに

本記事では、『わが投資術-市場は誰に微笑むか』で紹介されていた投資のエッセンスについて紹介しました。

「割安な株を見つけて投資しよう!」とはよく言いますが、株価が割安の割安度合いを判断するのは、実はそう単純にはできません。

「ネットキャッシュ倍率」は割安度合いを評価する非常に強力な指標の一つであることが分かりましたが、他にも「ビジネスモデル」、「企業の設備投資スケジュール」、「企業の成長性」などから総合的に判断することで、投資精度はより高まっていくものと理解しました。

目からウロコの考え方がちりばめられた本でした。株式投資において銘柄選定の基準を学びたい方は、ぜひ手に取って読んでみて下さい。

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