日本の石油・天然ガス開発大手『INPEX』の株式を取得しました。
『INPEX』について
INPEXは日本最大級のエネルギー開発企業です。
国内外に数多くの石油・天然ガス権益を有し、日本の年間エネルギー消費量の約1割に相当する石油・天然ガスを、世界各国で日々生産しています。
主要顧客としては、例えば大手電力会社、都市ガス会社などが挙げられ、私たちの生活インフラを支えています。
売上高構成 | 比率 |
---|---|
原油 | 76% |
液化天然ガス | 23% |
その他 | 1% |
生産地域 | 比率 |
---|---|
中東・アフリカ | 43% |
アジア・オセアニア | 40% |
ヨーロッパ、NIS諸国 | 12% |
その他 | 5% |
売上高構成比率は原油(76%)、液化天然ガス(23%)の2つで構成されています。
生産地域は、中東・アフリカ(43%)、アジア・オセアニア(40%)、ヨーロッパ・NIS諸国(12%)と、全世界各国に生産拠点を有しています。
2022年12月期の年間売上高は2.3兆円、営業利益は1.2兆円、純利益は4300億円です。ウクライナ危機による原油価格高騰や円安の影響により、売上高・利益は前年対比で倍増していますが、それらの外部要因を差し引いても、稼ぐ力が強い企業と言えそうです。
『INPEX』の将来性と投資判断
株式投資を決めた理由について、記録を残しておきたいと思います。(あくまでも私個人のものさしに基づく評価ですので、投資判断はご自身の責任でお願いします)。
投資判断する上では、バリュー投資家の元祖として知られるベンジャミン・グレアムの著書『賢明なる投資家』などを参考にしています。特に、以下の8項目に注目して、将来性・安定性などを検討しています。
項目 | 評価 |
---|---|
企業規模 | 〇 |
財務状況 | △ |
収益の安定性 | △ |
配当歴 | 〇 |
収益の伸び | ◎ |
割安度合い(PER) | 〇 |
割安度合い(PBR) | ◎ |
企業規模
「企業の体力」という観点から、企業規模はある程度大きい方が好ましいと考えています。INPEXの2023年度売上高は2.3兆円ほどであり、企業規模は「十分に大きい」と判断されます。
財務状況
財務の健全性は、「流動比率(=流動資産÷流動負債)」を目安にしています。INPEXの2023年度の流動比率は約140%であり、財務状況には「やや不安」が見られます。一方で、自己資本比率は60%となっており、一般に財務が健全とされる水準は満たしている状況です。
収益の安定性
INPEXは2020.12月期に純利益が赤字となっています。赤字転落の理由としては、「新型コロナウイルスの影響で世界経済が減速」⇒「石油・天然ガスの価格が大幅下落」⇒「下落した石油価格ベースで資産を再評価し、特別損失を計上」と説明されています。
また、赤字ではありませんが、2015年度~2019年度の5年間は純利益が1000億円以下であり、しばらく業績が低迷していました。この時期は、「米国でシェールオイルの生産量増加」⇒「市場シェア縮小を恐れた中東諸国が増産で対抗」⇒「供給過多となり原油価格が低下」⇒「業界全体で利益率低下」が起きています(一次エネルギーの動向:経済産業省)。
ただし、現在は二十数ヶ国の産油国からなる『OPECプラス』が結成され、需要に合わせて産油国全体で生産量を調整する試みがなされているため、価格は安定傾向です。
「景気に敏感な事業であること」、「事業分野が政治的な影響を受けやすい」などの観点から、収益の安定性は「やや懸念有り」かと思っています。
配当歴
INPEXは、過去10年間、継続して配当を出しており、直近3年間は増配傾向です。2022年12月期の配当利回りも4%程度であり、高配当銘柄と言えます。
収益の伸び
INPEXはこの10年間で一株当たり利益(EPS)が2倍程度に増加しています。このEPSの増加には、近年のエネルギー価格上昇や円安の影響も乗っかっていますが、それらを考慮しても、収益の伸びは「良好」と判断しました。
割安度合い(PER)
INPEXは、直近3年間の平均EPSで算出した株価収益率(PER)が11倍程度であり、株価は「割安」と考えられます。また、今期の予想業績から見た予想PERについては7倍程度であり、予想PERの観点からも「割安」と考えられます。
割安度合い(PBR)
INPEXは、株価純資産倍率(PBR)が0.5~0.6倍と非常に低く、「割安」と判断されます。
また、2023年に入ってからは、東京証券取引所が上場企業に対して「PBR1倍割れ改善」を要請した点も注目です。INPEXの株価に対しても、PBR1倍に向けて上昇圧力が働く可能性があります。
その他、注目した点
利益構造
INPEXはここ10年、粗利率が50%前後、営業利益が毎年数千億円を継続しており、稼ぐ力が非常に強い印象を受けます。ただし、純利益は1000億円前後の年が多く、営業利益の割に純利益は低い感じがします。
調べてみると、なんと税金(住民税・法人税・事業税)の支払いに営業利益の70%前後を割いていました。原油などの採掘によって得た利益に、産油国から高額な税金の支払いを求められることが要因のようです。
株主還元と技術開発
INPEXは中期経営計画で「総還元性向40%以上」、「1株当たり年間配当金の下限30円」を掲げています。株主還元の強化を宣言している点は、株式投資におけるポイントの一つです。
また、足元の石油・天然ガス供給で得た利益の一部は、ネットゼロ5分野(①水素・アンモニア、②石油・天然ガス分野のCO₂低減、③再エネ、④カーボンリサイクル・新分野、⑤森林)に投資するとしています。クリーンエネルギーの実現に向けて、投資を加速している点も注目です。
まとめ
INPEXは日本最大の石油・天然ガス開発企業であり、世界中の人々の生活を支えている企業です。日本政府もINPEXを「エネルギー安全保障上の重要企業」に位置付けており、筆頭株主はなんと”経済産業大臣”となっています。
主力事業が膨大な資金投資を必要とするエネルギー開発であること、政治的な影響を受けやすい事業分野であることから、「財務状況」や「収益の安定性」にはやや不安が感じられます。
しかしながら、
- 2023年現在のPBRは0.5~0.6倍であり、割安な水準(=株価の下落余地が小さく、仮に下がったとしても想定内に収まる:安全域の確保)
- 生活インフラとして必要不可欠なエネルギーを供給する企業であり、将来性が見込まれる(=今後も長きに渡ってビジネスが継続する)
- 近年は「エネルギー開発競争による原油価格低下」、「コロナ禍による需要低下」などで利益が落ち込んでいたものの、直近は2期連続で最高益を更新(=長かったトンネルを抜けつつあるが、株価は最高値から半値程度であり、未だ株価に反映されきれていないと判断)
- 主要産油国からなる『OPECプラス』が結成され、需要に応じた供給量の調節が可能となり、コモディティ製品にも関わらず原油が価格決定力のある商品に変化しつつある。
- 「ロシアーウクライナ戦争」、「米中貿易摩擦」などでグローバル経済が終焉しつつあり、”日本企業である”ということが競争力の源泉となりつつある。(「石油・天然ガスの自主開発比率を2040年までに60%へ引き上げ(経済産業省)」)
と好材料が多く、株式投資する判断をしました。日本のエネルギー安全保障上の重要企業として、今後も末永く見守っていきたいと思います。
コメント