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【感想&解説】『生き心地の良い町』を読んで

目次

『生き心地の良い町』簡単解説

『生き心地の良い町』は、「自殺率が低い地域でのフィールド調査を通して、”生き心地の良さ”の要因を明らかにする本」です。

著者の岡檀(おか まゆみ)さんは、人間の「健康」を専門とする日本の研究者。学生の頃に「社会コミュニティと自殺率の関係」に興味を持ち、研究を始めました。

本書では、日本でも極めて自殺率の低い町である徳島・海部町でのフィールド調査結果を取り上げ、自殺率が低いコミュニティの特徴を解き明かしていきます。

「地域に根差した仕事を行う公務員の方」はもちろんのこと、「チームを率いるビジネス現場のリーダーの方」にもぜひオススメしたい本です。

研究の背景

社会生活には「ストレス」がつきものです。

仕事では「業務達成のプレッシャー」や「上司・部下の人間関係」で悩まされ、プライベートでは「家庭の事情」や「友達関係」で頭を抱えることも多いでしょう。

日本にはストレスで心を病み、自殺してしまう方の多い地域が存在する一方で、同じようなストレスの下でも元気に明るく人々が生活している地域があります。

「自殺率の高い町」と「自殺率の低い町」を分けている因子は一体何なのか。一体何が「住み心地の良さ」と関係し、人々の命を繋ぎとめているのか。

筆者はこの謎を解き明かすべく、日本各地でフィールド調査を始めます。

自殺率が低い町の特徴

筆者は日本でも極めて自殺率が低いことで知られる「徳島県・海部町」に注目しました。

筆者は根気強くフィールド調査を続けるうちに、「海部町」は他の町と比べて、次の特徴があることに気づきます。

「自殺率の低い町」海部町の特徴
  1. 多様性を尊重する
  2. 地位や学歴、家柄を重視しない
  3. 主体的に社会活動にかかわる
  4. すぐに助けを求める
  5. ゆるく繋がっている

海部町では、赤い羽根募金を募っても「何に使われるか分からないものに金は出さない」と一蹴されたり、高齢者を地域の老人クラブに勧誘しても「俺はいい」と断られたりして役場の人が頭を悩ませているエピソードが紹介されています。「みんながやっているなら…」と周りに同調する地域が多い中で、海部町には個人の気持ちを尊重しても許される町の雰囲気があることを筆者は感じ取りました。

また、町内会の人事では、地位や学歴・家柄に囚われず、能力があると見れば新しく町に引っ越してきた新参者をリーダーに抜擢するなど大胆な人事が良く行われるそうです。地域行政や政治に関してはしっかりと意見を述べ、主体的に社会活動にかかわる人が極めて多いことがアンケート調査で明らかにされています。

他にも、困ったときはすぐに助けを求めることができる関係性が構築されている、地縁血縁関係は薄いことからゆるく繋がっているコミュニティであることも海辺町の特徴として挙げられています。

「生き心地の良さ」と関係する地理的特徴

確かに、海部町のように、「多様性を尊重し」、「地位や学歴、家柄を重視せず」、「主体的に社会活動にかかわる人が多く」、「すぐに助けを求められる人間関係が存在し」、「周りの人とゆるく繋がっている」ような町は、きっと「生き心地が良い」ことでしょう。

しかし、一体なぜ、海辺町はこれらの特徴を有しているのでしょうか。「生き心地の良さ」を支えている真の要因が明らかになれば、町づくりだけでなく、チーム作りなどの参考にもなるはずです。

著者はフィールド調査を続けるうちに、自殺率の高い町と低い町の間には、”地理的な違い”が存在することに気が付きます。このことを立証するため、全国の地域統計データを使って統計解析を実施することにしました。

その結果、「可住地傾斜度」が高い町(傾斜が急な場所に人が住む町)ほど「自殺率」が高いという事実が浮かび上がってきたのです。

「自殺率」と相関のあった地理的変数

「可住地傾斜度」、次いで「可住地人口密度」「最深積雪量」「日照時間」「海岸部属性」。

傾斜がほとんど無い平野部などには町の公共施設が集まり、生活の利便性は高い傾向にあります。また、人口も集中するので人々の交流も盛んです(実際に、海辺町は平坦な土地に存在し、人口密度が高いなどの特徴を網羅しています)。

一方で日本には、傾斜が急な山間部などは学校や病院、商業施設などが少なく、通学や買い物に出るだけで30分以上かかることも多々あります。そのような環境では、隣人との交流機会も少ないことから、”助け合い”の文化も少ないことは容易に想像できます。

「自分一人で生きていかなければ…」という考えが、悩みを一人で抱え込むことに繋がり、自殺率の上昇に寄与している可能性がある。そして、そのような雰囲気が醸成される要因に実は”地理的要素”が関係していることを筆者が明らかにしてくれました。

さいごに

本書で明らかにされたことは、我々の普段の生活にも大変参考になる結果と思います。仕事の現場では「気軽に悩みを話せる関係性」や「働き甲斐のある職場づくり」などがよく議論されますが。このような場合、我々はすぐ「会話術」や「ルール」などといった”テクニック”に走りがちです。

そうではなくて、例えば「居室の机配置」だったりとか「共有スペースの充実」といった”ハード面の整備”が、実は一番重要なのではないかと本書を読んでいて感じました。ハード面が変われば、自ずと風通しも良くなり、いちいちルールなど設けなくてもチームや職場の雰囲気が向上するのではないでしょうか。

隣人と接する機会を増やし、公共のモノに誰でも簡単にアクセスできるような利便性を意識するのが大切なのかもしれません。

以上、本記事では『生き心地の良い町』を紹介しました。

「町づくりに携わっている公務員の方」だけでなく「ビジネス現場の管理職やリーダーの方」にもおすすめの本です。興味を持った方はぜひ一読してみて下さい。

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