『ZERO to ONE』読了。成功する企業の原則が語られた、正真正銘の”ビジネス”本でした。
『ZERO to ONE』簡単解説
『ZERO to ONE』は、「本質だけど意外と見落とされがちな、ビジネスで成功する秘訣が語られた本」です。
著者のピーター・ティールは米国の連続企業家です。インターネット決済の「PayPal」やビッグデータ解析の「パランティア」の創設者として知られています。
複数の会社を起業し成功してきた経験から、ビジネスで成功する会社には共通点があることを見出し、本書にまとめました。
「起業して成功したい」、「投資家として成功したい」と考えている方におすすめです。
大成功する企業の特徴
時代が変化するスピードはどんどん加速しています。
例えば、2010年時点でスマートフォンの国内普及率はたった数%でしたが、iPhoneの登場により、今日では一人1台がスマホを保有するようになりました。Appleの時価総額は、世界一位の500兆円(日本の全体時価総額の約半分)を記録しています。
また、1998年に創設されたアルファベットは、たった30年足らずの間に、検索エンジン(Google)や動画提供サービス(Youtube)で確固たる地位を築き、世界数十億人に自社サービスを提供しています。
急成長する企業に共通する特徴。 キーワードは「独占」であると筆者は述べます。
完全競争下では長期的に利益を出す企業は存在しない。完全競争の反対が独占だ。
完全競争下の企業が市場価格を強いられる一方で、独占企業は市場を支配しているため自由に価格を設定できる。競争がないので、独占企業は生産量と価格を調整して利益の最大化を図る。
『ZERO to ONE』(NHK出版)44ページ
普通、ビジネスで成功するためには「熾烈な競争を勝ち抜かなければならない」と考えます。しかし、大成功を収める会社はその反対で、「できるだけ競争しない(=市場を独占できる)」ように戦略を立てているのです。
Appleは、革新的なデバイス、カフェでPCを広げたくもなるブランドイメージに支えられて、1台10万を超える高価格帯でも、熱烈なファンが製品を購入してくれます。Apple信者は、サムスンの低価格スマホには見向きもしません。
「競争とは無縁」とも思えるAppleの地位が、高利益ビジネスの源泉になっているのです。
市場を「独占」できる企業の共通点とは?

では、市場を「独占」して成功を収める企業の共通点は一体何なのでしょうか。筆者は4つの共通点を挙げています。
- 差別化技術・独占的ノウハウ(=プロプライエタリ・テクノロジー)
- ネットワーク効果
- 規模の経済
- ブランド
1. 差別化技術・独占的ノウハウ(=プロプライエタリ・テクノロジー)
ビジネスの世界は厳しく、新しい製品はすぐにライバル企業から研究され、模倣の対象になります。
そのため、独占的なビジネスを展開するためには、他社が簡単にはマネできない「差別化技術」や「独占的ノウハウ」を保有していることがカギとなります。
筆者は独占的に展開できる製品として、「既存製品よりも”10倍”は性能で優れる技術やノウハウに支えられている」ことが必要と言います。”10倍”の性能向上は、改良の積み重ねで到達できるレベルではありません。
ガラケー市場を文字通り「破壊」しスマホ市場を新しく「創出」したAppleのように、圧倒的な成長を成し遂げるためには、「新しい市場を創出するレベルの技術革新」に集中する必要があるのです。
ネットワーク効果
利用者数が増えるにつれて利便性が上がるようなサービスは、最終的に独占的な地位を築くことができます。
たとえば、私たちは文書作成の際にマイクロソフト社の「Word」を使うのが今や当然の常識になっているので、いまさら「一太郎」を使っても、他人に迷惑がられます。
ネットワーク効果が働く市場では、一度シェアが獲得されると、他社が参入するハードルは一気に上昇します。また、シェアを獲得した企業には利用データが蓄積されるので、性能もどんどん改善され、ますます他社参入は厳しくなります。
規模の経済
利用者数の伸びにコストが比例して増えないようなサービス設計をしておくことは、市場独占のためのカギとなります。
例えば、検索エンジンGoogleの利用者数が10倍に伸びても、Googleエンジニアが10倍に増える訳ではありませんし、本社フロアを10倍に拡張する必要もありません。検索エンジンの「システム」を一度構築してしまえば、あとはいくらでもそれを展開できます。
売上の伸びに固定費(人件費、管理費、工場)が比例しないサービス設計が求められるとも言えますね。
ブランド
ブランド力があれば、原価を無視した法外な値段でも顧客が購入してくれます。
例えば、シャネルやグッチのバッグは数十万円しますが、原材料費や機能面から考えると、普通はあり得ない価格設定です。
シャネルやグッチは、実のところ「モノ」を売っているのではなく、「高揚感」や「優越感」といった感情を提供しているのです。ブランドには顧客の「心」を動かす力があります。
「ベンチャー投資」の考え方

一代で富を築く成功者は、➀オーナ社長として圧倒的なスピードで会社を成長させた、もしくは、➁そのような会社にベンチャー投資家として投資をした、のどちらかです。
逆接的に、ベンチャー投資家として圧倒的な成功を収めたければ、先ほど解説した、「未来の独占企業候補」に投資する必要があります。
「アップサイドはあまり無いけど高利回りで堅実な企業」へ投資したい気持ちを我慢し、「世界を変えるポテンシャルのある未来の独占企業候補」に集中して投資する必要があるのです。
ベンチャーキャピタルにとって何よりも大きな隠れた真実は、ファンド中最も成功した投資家案件のリターンが、その他すべての案件の合計リターンに匹敵するか、それを超えることだ。
『ZERO to ONE』(NHK出版)120ページ
成功者たちはこの原則を理解し、自分の人生やお金を「無限大のアップサイド」に置き、小さな失敗は無視し、一撃で勝負を決められるような案件のみに集中していたのです。
もちろん、高配当投資やインデックス投資など、年間数%の期待利益を着実に積み上げるタイプの手法にもメリットがあります。「老後資金の確保」などが目的の人は、時間は要するがより安定的な手法を選択するのも一案でしょう。
一方で、通常の人生では一生お目にかかれないような”高み”を目指している方は、根本的な考え方を変える必要があることを本書は示してくれています。
「起業して成功したい」、「投資で大きく成功したい」といった方向けのマインドセットが学べる一冊でした。興味を持った方はぜひ読んでみて下さい。