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【感想&解説】『マネーの進化史』を読んで【お金の歴史を紐解く】

『マネーの進化史』を読んで、壮大な金融の歴史に触れました。

目次

『マネーの進化史』簡単解説

『マネーの進化史』は、人間が貨幣を使用し始めてから現代の金融システムが誕生するまで、一気通貫でお金の歴史をまとめた本です。

著者のニーアル・ファーガソンはイギリスの歴史学者であり、ハーバード・ビジネススクールなどでも教授を務めています。

本書では、株式や債券、保険、不動産といった金融システムの誕生秘話について、当時の歴史背景を描きながら分かりやすく解説しています。

「お金ってなんだろう」、「どのようにして今の金融システムは誕生したんだろう」。こんな疑問を感じたことのある方にオススメの歴史書です。

お金の歴史

株式や債券、保険、不動産などの金融用語は、誰もが一度は聞いたことのある言葉と思います。

これらのシステムは、いつ頃に、どんな経緯で、誕生したのでしょうか?

まずは、マネーの歴史を年表形式で見てみましょう。

お金の歴史(貨幣の使用から現代まで)

現代の経済基盤である株式市場や債券市場は、実は今からほんの数百年前に誕生しています。また、私たちが馴染みのある保険や不動産が社会的に普及したのは、つい最近のことのようです。

我々の知る”経済”の形は人類史で見ると生まれたてのようなものですね。

代用貨幣の使用

現在私たちは当たり前のように鋳造された金属(=小銭)や印刷された紙(=紙幣)を使っていますが、そもそもこのようなお金の使用はいつ頃まで遡るのでしょうか?

本書によると、紀元前20世紀頃、今から4000年前の古代メソポタミア文明にて、代用貨幣(トークン)として用いていた粘土板が出土していることが記されています。

ブッラ(古代メソポタミア時代の代用貨幣):Wikipedia commons, Link

古代メソポタミアの粘土版は一定量の小麦と交換できる価値を有し、必要であれば銀とも交換できたようです。

貨幣がさまざまな商品と交換価値を持ち、金によってその価値が保証されていた近代の「金本位制」とほぼ同じシステムですよね。

現代社会を支える貨幣の歴史は、想像以上に古い起源があることが分かります。

銀行の誕生

銀行の起源は、14世紀頃、イタリアで成功を収めたメディチ家と言われています。

当時、金融の世界には「高利貸し」が蔓延っていました。

「高利貸し」というと悪者のイメージがありますが、彼らも、借り手が返済不要になるリスクと常に隣り合わせなため無慈悲な取り立てをせざるを得ない事情があり、高利回りに設定しないと商売を継続できないような状況でした。

メディチ家が画期的だった点は、金融業で「事業の拡大と多角化」を行い、リスクを分散することによって金貸し業を安定化したことです。

事業の拡大(=顧客増)と多角化(=金貸し、為替取引、…)により、仮に一人の顧客が返済不要に陥っても破産する可能性が低くなり、いわゆる「薄利多売」の原理で利回りも低く設定することが出来るようになりました。

メディチ家の経営方法はすぐにヨーロッパ各地へ普及し、それから数世紀にわたる商業面の大成功を支えました。

債券市場の誕生

債券取引とは、具体的に言えば、「国・地方自治体が銀行・一般市民に対して借金すること」です。

お金を貸出した銀行や一般市民は、後に元本+αを得ることが出来ますが、借り手(国や地方自治体)が返済不要(デフォルト)に陥るリスクも存在します。

債券取引が活発になり始めたのは、13世紀頃、ヨーロッパの都市国家だと言われています。

当時、ヨーロッパでは各地で激しい戦争が繰り広げられていました。

長期にわたって戦争を続けるためには「巨額の戦費」が必要です。当時のヨーロッパ諸国は、戦費を捻出するために国民が国に金貸しを行い、戦争に勝った場合は、勝利金を利子として分配するよう法律で義務付けることとしました。

これが、債券の起源です。

現代において国が債券を発行し集めたお金は「社会保障」や「災害復興」などに充てられますが、最初は「戦費の捻出」のためだったとは興味深いですね。

株式市場の誕生

私たちも非常に馴染みのある「株式会社」。その起源は、17世紀頃、オランダで設立された東インド会社と言われています。

当時、アジアで採れる貴重な香辛料をヨーロッパへ運んで商売する「香辛料貿易」が盛んでした。

香辛料を運ぶため、ポルトガル⇔喜望峰(アフリカ大陸の最南端)⇔アジア経由で航海が行われていましたが、この航海は非常に危険をはらんでおり、往復に1年以上、無事に帰還できる船は半分程度だったと記録されています。

ヴァスコ・ダ・ガマの航海ルート(1498年、黒):Wikipedia commons, Link

この挑戦的なビジネスを長期にわたって継続させるために生まれたのが、東インド会社でした。

東インド会社は貿易のための多額の初期費用(貿易船の建設費や労働者の人件費)を複数の投資者から募り(=共同資本)、実際に航海が成功すれば、利益を投資家と分かち合いました。

また、航海が失敗したとしても投資家に保障する義務が無かったため、東インド会社は野心的なビジネスを展開することができ(=有限責任)、投資家一人一人の負担も少なく済ませることができました。

「株式会社」と「野心的なビジネス」は非常に相性が良く、ここから経済は著しく発展していくことになります。

保険の普及

私たちが当たり前の権利と思っている国の「健康保険制度」や「年金制度」。国が市民から税金を徴収して運用する制度ですが、一体いつから始まったのでしょうか?

国家として健康保険制度と年金制度を導入したのは、19世紀頃、ドイツ・プロイセンでした。

プロイセンの当時の首相ビスマルクは、どんな目的でこれらの制度を施行したのでしょうか?

プロイセンのオットー・フォン・ビスマルクが社会保険法を施行した目的は、「多数の無産階級の者たちの間に、自分には年金を受給する資格があるのだ、という感情を呼び起こし、それに伴って保守的な愛国心を生み出す」ことにあったと、自らが一八八〇年に語っている。

『マネーの進化史』(早川書房)267ページ

「国民の幸せ」というよりもむしろ「政治的理由」で最初は始まったのが意外ですね。

日本においても一九三〇年代に健康保険制度が導入されますが、これは当時勃発していた日清戦争に対して、健康な新兵を提供する目的だったと筆者は述べています。

債券市場が誕生した理由にも絡んでいたように、マネーと戦争は密接に関わっているのが伺えます。

不動産の隆盛

将来は自分の一軒家を建てたいな…。

こう考えている方も多いと思いのではないでしょうか。

現代では当たり前のように住宅ローンを組んで、”持ち家”を所有します。しかし、歴史を振り返ってみると、多くの人が持ち家を持つようになったのはほんの100年前からのようです。

個人に住宅所有を推進する政策を始めて打ち出したのは、一九三〇年代、アメリカ政府と言われています。

当時、世界経済は大恐慌に襲われ、町には大量の失業者で溢れていました。解雇された労働者の不満は募るばかりで、この頃、「平等な社会」を掲げる共産主義も急速に台頭してきます。

この社会的混乱を抑える目的で導入された政策の目玉が、住宅ローン推進による「持ち家の普及」でした。

労働者に単なる借家ではなく自分の持ち家を所有させることで、「市民としての自信」、「労働への意欲」が回復するのではないか、と政府は考えたのです。

アメリカを皮切りに、世界各国の持ち家所有率は急増し、「住宅ローンを組んで個人が自分の家を所有する」は市民の一つの憧れとなっていきました。

さいごに

本記事では『マネーの進化史』を簡単に解説しながら、お金の歴史を覗いてみました。

そもそも、歴史を学ぶ意義は何でしょうか。

私は、歴史を学ぶ意義の一つに「常識にとらわれない想像力を養えること」があると思います。

私たちが馴染みのある株式市場や保険といった金融システムが誕生したのは、人類史上でみると、実はつい最近のことであるのが分かります。

こういった事実を知れば、株式会社が世界を牛耳る今の資本主義だけが世界のとり得る形ではないと容易に想像できますし、お金や金融商品に対して、一歩引いた目線で、俯瞰で接することができるかもしれません。

「お金ってなんだろう」、「どのようにして今の金融システムは誕生したんだろう」。こんな疑問を感じたことのある方は、お金の歴史が分かりやすくまとまった本書をぜひ読んでみて下さい。

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