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【感想&解説】『ケーキの切れない非行少年たち』を読んで

多くの人にとっては関わる機会が少ない、けど確実に社会に存在している、非行少年たちの話です。

目次

『ケーキの切れない非行少年たち』簡単解説

『ケーキの切れない非行少年たち』は、「非行に走る少年たちが抱えている共通の問題を明らかにし、彼らの社会性を育むためにはどうすべきか考察した本」です。

著者の宮口幸治さんは精神科医として勤務した後、精神障害を抱える子どもに有効な支援策を考え直すため、少年院へ赴任します。少年院で非行を起こした子どもたちと接するにつれて、彼らが抱える問題の根の深さにだんだんと気づき始めます。

「子供と接する機会の多い人」、「教育現場で働く人」にぜひ読んでほしい一冊です。

非行に走る少年たちの共通点

少年院に赴任した宮口さんは最初に、少年たちの予想外に穏やかな表情を見て、「とても犯罪を犯すような子供には見えない」という第一印象を受けたそうです。

しかし、精神科医時代に用いていた診察方法を使って少年たちを分析するうちに、彼らが内側に抱えている問題の深さに気づき始めます。

宮口さんは少年たちに次のような問題を出しました。

丸いケーキを3人で食べます。皆で”平等”に食べるとしたら、どのように切りますか?

最も単純な答えの一つは、風車のように3等分する方法です。非常に簡単ですが、少年院の子どもたちは「うーん…」と頭を悩ませた挙句、次のように答えたそうです。

非行少年たちの回答

実は、このように答えたのは中学生・高校生の年齢にあたる若者たち。彼らは、世の中で「当たり前」や「常識」とされることが”理解できていない”ことに筆者は気づき、衝撃を受けました。

私は”ひょっとしたら、これが彼の非行の原因になっているのではないか”と直感しました。同時に、彼がこれまで社会でどれだけ生きにくい生活をしてきたのか、容易に想像できました。つまり、これを何とかしないと彼の再非行は防げない、と思ったのです。

『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)21ページ

「ケーキを3等分に分ける」ようなレベルの問題が分からないのであれば、当然、学校の授業にはついていけません。教師からは「不真面目だ」と評価を受け、同学年から「あいつはバカだ」とレッテルを貼られてイジメに遭うかもしれません。それらを理由に居場所を無くし、ストレスで少年たちが非行に走ってしまう可能性は十分考えられるでしょう。

そして、さらに問題だったのは、非行を行った少年たちに対して、ひたすら反省を強いる教育が当時の少年院でなされていたことでした。

世の中の「当たり前」や「常識」が分からない少年たちにひたすら反省を求め続けても、効果は薄いどころか、自己肯定感を下げさせる一方で逆効果になることは容易に想像できます。

どうすれば少年たちを支援できるか

それでは、一体どうすれば、少年たちを支援することができるのでしょうか。

教育現場において、不出来な生徒に対する支援案として最も定番と言われているのが、「長所を見つけて褒める」、「話を聞いてあげる」などです。

しかしながら、これらの方法はその場を取り繕うには有効ですが、少年たちの根本的な問題を解決しておらず、学年が上がって担任が変わったり、社会に出た後はまた苦労してしまいます。

筆者は、少年たちが変わるために必要なこととして以下の2つを挙げます。

  1. 自己への気づき
  2. 自己評価の向上

1. 自己への気づき

人が変わるためには、まず、「自己理解」によって自身の置かれた状況を把握することが必要不可欠です。

筆者は、自己に注意を向けさせる方法として、次のような具体例を挙げています。

  • 他人から見られている
  • 自分の姿を鏡で見る
  • 自分の声を聴く

本書では、『かつて飛び込み自殺の多かった札幌の地下鉄のホームに鏡を設置したところ、自殺者が減った』というエピソードが紹介されていました。

自己を意識して初めて、「自分がやろうとしていること」、「自分が過去にやってしまったこと」に対する反省が始まる訳ですね。

子どもの心の扉を開くには、子ども自身がハッとする気づきの体験が最も大切であり、我々大人の役割は、説教や叱責などによって無理やり扉を開けさせることではなく、子ども自身に出来るだけ多くの気づきの場を提供することなのです。

『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)153ページ

2. 自己評価の向上

自己への気づきができると、自分の現状を客観的に見ることができるようになります。すると、「もっと人から良く見られたい」、「もっと人の役に立てるようになりたい」といった意識も芽生えます。

筆者は、自己への気づきができるようになった生徒たちの授業態度が明らかに変わる姿を何度も見たと言います。「人から良く見られたい」という意識が「努力」を生み、そして実際に「自己評価への向上」へと繋がっていくのです。

自己評価の向上によって、「自分にできっこない…」から「もしかしたら自分にできることがあるかも…」と意識が変わっていけば、他人と協力して社会生活を営む動機もおのずと生まれていくでしょう。

「私には関係のない話」ではない

でも、この話って少年院を題材にした話だよね。
大多数の一般人には関係ない話じゃない?

こう感じる方がいるかもしれませんが、実はそうとも言い切れません。

非行少年たちは知能障害などを抱えている場合が多いことを見てきましたが、実は、そのような知的な障害を抱えている人達は全人口の16%ほどもいると言われています。

知的障害はIQの程度などによって区分けされており、

  • IQ85以上:平均的な値
  • IQ70~84:境界知能領域(人口の約14%と推定)
  • IQ70未満:知的障害(人口の約2%と推定)

IQ70~84(境界知能領域)の人々は、知的障害と認定されるわけではありません。しかし、社会生活を営む上で様々なハンディを負っていると想定され、本書では「忘れられた人々」と表現されています。彼らの特徴としては、例えば、

  • 複雑な業務をすることが難しく、所得は少ない傾向
  • 友人関係を結ぶことが難しく、孤立している

社会生活の中で、次のような場面に遭遇したことのある方がいるかもしれません。

〇〇さんは全く業務の指示を理解できなくて、話にならない!
申し訳ないが彼はクビだ!

〇〇さんは思いやりのない発言を繰り返して雰囲気を壊すから、みんなで無視しましょう!

もし、「仕事を進めることができない」、「大人の会話ができない」ような人が身近にいたとしても、境界知能領域の人々が社会に14%もいることを知っていれば、周りの態度や言動は自ずと変わってくるのではないでしょうか。

能力ゆえに社会で生きづらい思いをしている人がいるという”事実”を共通認識として皆が持てば、社会はさらに変わるのかもしれません。

以上、『ケーキの切れない非行少年たち』を紹介しました。

「子供と接する機会の多い人」、「教育現場で働く人」は特に読んでほしい一冊です。

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