『オニールの成長株発掘法』簡単解説
『オニールの成長株発掘法』は、「成長株発掘のための実践的なフレーム・ワークを提唱し、成長株投資のバイブルとして読み継がれている本」です。
著者のウィリアム・J・オニールはアメリカで最も成功した投資家の一人であり、成長株投資の先駆者として知られています。
本書では成長株投資における実践的なフレームワークとして『CAN-SLIM』という指標が提唱されており、成長株投資の考え方や投資判断の基準が明確に記されています。
「個別株投資を始める方」、「成長株投資法に興味がある方」におすすめの本です。
「成長株投資」とは
株式投資のうち、自分で銘柄選定して投資していく個別株投資法には様々な銘柄の選定の考え方が存在します。
代表的な個別株投資の手法は「成長株投資法」と「バリュー投資法」の2つです。
- 成長株投資法
- 急激な成長を遂げている”成長銘柄”に投資し、現在の市場価値と将来成長した後の市場価値の差分で、利益を得る方法。
- バリュー株投資法
- 実際の企業価値よりも市場で低く評価されている”割安銘柄”に投資し、将来的に市場評価が見直されて株価が上昇したときの差分で、利益を得る方法です。
成長株投資法は将来株価が大きく上昇するポテンシャルがある一方で、現時点で既に人気が高まっている銘柄も多く、高値掴みをして損をする可能性も含んでいます。
そんな「成長株投資法」において、「どのような投資法を実践すればしっかり利益を積み上げられるのか」を記したのが本書です。
成長株の発掘法
著者のオニールは、成長株発掘法のポイントを7つにまとめた『CAN-SLIM』という考え方を提唱しています。
- 四半期EPSの顕著な上昇。
- 年間EPSの安定的な上昇。
- 新製品・新経営陣・新高値など。
- 株式の需要と供給のバランス。
- 市場を牽引する主導銘柄。
- 機関投資家による保有。
- 市場全体の方向性。
①四半期EPSの顕著な上昇
- 当四半期のEPSが前年同期比で少なくとも25%以上、2期連続で上昇している。
- さらに、最近の四半期のどこかの時点で、EPSが”加速的”に上昇している。
- 四半期売上も加速的に上昇している。
「成長株発掘における最重要項目は、なんといってもEPS(一株あたり利益)の上昇である」と筆者は断言しています。EPSの上昇率が高いほど株価は上昇しやすく、EPSが加速的に上昇していれば、大化けする可能性もあります。
本書によると、今では巨大IT企業となったAppleやGoogleなどは、株価が急上昇する直前のEPS増加率が2期連続で100%~350%にも達していたとのこと。
EPSの増加が「コスト削減」ではなく「好調な本業ビジネス」に紐づいていることを確認するため、「売上高の上昇も伴っていることを条件に加えるべき」と述べられています。
②年間EPSの安定的な上昇
- 過去3年間、年間EPSが前年比で25%以上上昇している。
- ROEは17%以上であるのが好ましい。
「短期的なEPSの増加が一過性のものではないことを裏付けるためには、中長期的に安定してEPSが上昇していることも確認する必要がある」と筆者は言っています。
また、株式投資する場合の利益成長の観点から、「ROEは17%以上であるべき」とも付け加えられています。
➂新製品・新経営陣・新高値など
- 新製品・新経営陣・新高値などの好材料が出ている。
- 特に、「正しく形成されたベースから抜けて新高値を付けたタイミングで買うこと」。
典型的な成長銘柄の株価チャートは、新高値→もみ合い→新高値→もみ合い→新高値…を繰り返しながら上昇していきます。
「新高値を付けた銘柄ほどさらに上昇し、新安値を付けた銘柄ほどさらに下降していく」現象が市場では頻繁にみられますが、これは、
- 新高値を付けた銘柄ほどさらに上昇する。
- ほぼ全員が含み益であり、今すぐ売りたい投資家が少ない(=売りよりも買いが強い状況がしばらく続く)。
- 新安値を付けた銘柄ほどさらに下降する。
- ほぼ全員が含み損であり、株価が戻ってきたら売ろうと思っている投資家が多い(=買いよりも売りが強い状況がしばらく続く)
という市場心理が働くためです。
「正しく形成されたベースから抜けて新高値を付けたタイミングが買うことで、含み損に陥るリスクを最小化しつつ、利益を狙うことができる」と筆者は強調しています。
➃株式の需要と供給のバランス
- 正しく形成されたベースから抜けるときに、出来高が増加する銘柄を探す
- 自社株買いしている企業はより好ましい。
株価は投資家の「需要と供給のバランス」によって刻一刻と変化しています。株価が力強く上昇していくためには、大口投資家の「買い」が必要です。
株価が新高値を付ける際に出来高も揃って増加していれば、機関投資家などから大口の買いが入っていることが間接的に示唆され、需要が高まっていることの証拠になります。
また、企業の自社株買いも一種の買い需要のため、好材料と言えます。
⑤市場を牽引する主導銘柄
- 特定の分野や地域で「業績の伸び」が首位級の企業を選ぶ。
- 出遅れている停滞銘柄を選ぶのは推奨されない。
ある分野や地域で業績が停滞している銘柄は、業績の伸びが著しい企業に比べて、必ず何かしらの問題点を抱えているものです。
「ある業種が盛り上がっている」とか「業界の伸びが著しい企業に比べて株価が出遅れている」と言った理由で、停滞銘柄に投資するのは推奨されていません。
⑥機関投資家による保有
- 機関投資家による買いが増加している。
- 経営陣が自社株を所有している方が好ましい。
何億円~何千億円を運用するプロの機関投資家が買い増しているのはよい兆候の一つとして挙げられています。機関投資家の動きは有価証券報告書や証券会社の銘柄検索ページなどで確認可能です。
また、経営陣が自社株を保有している場合、「自社の市場価値を高めよう」という動機付けとなる場合が多いため、好ましいとされています。
⑦市場全体の方向性
- 市場が強気相場であること。
どんなに優れた銘柄を見つけて投資したとしても、市場全体が暴落してしまえば、利益を得るのはかなり難しくなります。
そのため、「個別銘柄の企業研究や株価チャート分析だけでなく、株価指数のチャートも同様にチェックする必要がある」と筆者は述べています。
本書の中から代表的な「市場のサイン」を少しだけ紹介しておきます。
- 天井を示すサインの例
- 出来高が増加したにも関わらず、株価が上昇しない(=機関投資家が売り抜けているサイン)
- 底を示すサインの例
- 株価が上昇に反転し、出来高の増加と共に株価の上昇がしばらく続く(=機関投資家が買い付けを始めたサイン)
「売り時」はどのタイミングか
本書で提唱されている成長株投資のフレームワーク『CAN-SLIM』は主に株式の「買い」に関する指標でしたが、投資においては買い時と同じくらい「売り」も重要になります。
損切り
本書では「損切りの必要性」が強く述べられており、以下の基準に例外なく従うべきとされています。
「含み損が出る」ということは、「株価が上がると思って買ったのに、自分の読みが間違っていた」ということを如実に示しています。もし含み損を抱えたまま持ち続けると、
- 冷静な判断が出来なくなる
- 将来の投資原資を大きく失う可能性がある
など、いいことはありません。「将来上がるかもしれない」という期待など捨てて、即刻売却しなければならないと筆者は何度も述べています。
株式市場で大きく勝つための一番の秘訣は、毎回正しい判断を下すことではない。間違った判断を下したときにできるだけ損失を抑えることなのだ。
『オニールの成長株発掘法』351ページ
利益確定
利益確定のタイミングは、次のように述べられています。
株を売る最良の時期とは、株価が上昇して、これからも上昇し続けるとだれもが疑わないときなのである。
『オニールの成長株投資法』381ページ
世間が楽観的な考えで浮かれていたり、インフルエンサーが勧めているような銘柄は、もうすでに株価が天井近くを付けている可能性が高まっています。
そのような状況が散見され始めたら、利益確定のタイミングかもしれません。
銘柄組み換え
新しい銘柄に投資する資金を確保するために、既に保有している銘柄を売却する際はどの銘柄を売却すべきでしょうか。
一番パフォーマンスが良く含み益が出ている銘柄を売却したいところですが、筆者は「最もパフォーマンスの悪い銘柄から売却すべきである」と述べています。
考えてみれば、パフォーマンスの良い銘柄でポートフォリオを構成するのがいいのは当たり前のことですが、これは意外と盲点かもしれません。
さいごに
今回は『オニールの成長株発掘法』について解説しました。
以前に紹介したバリュー株投資のバイブル本『賢明なる投資家』とはかなり系統の異なる内容でしたが、
- 「損切りの遵守」など、元本の確保を何よりも重要視していること
- 「収益の伸び(EPS増加率)」を重要視していること
など共通点も多く、非常に興味深い内容でした。
成長株投資を志す投資家はもちろんのこと、バリュー株投資家も学びの多い本と思いますので、ぜひ一読をオススメします。
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