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【感想&解説】『ケインズ説得論集』【一日3時間勤務、週15時間労働の真相】

目次

『ケインズ説得論集』簡単解説

『ケインズ説得論集』は、「19世紀を代表する経済学者ケインズの論考を一冊にまとめた本」です。

ケインズはイギリスのケンブリッジ大学を卒業し、大蔵省で実務経験を積んだ後、大学に戻って数多くの論文・書籍を発表しました。

ケインズが残した思想は「ケインズ経済学」と呼ばれて現代経済学の基礎をなしており、今なお多大な影響を与えています。

今回は、本書の中に収められている中から、「一日3時間勤務、週15時間労働」が提言されたことで有名な論文『孫の世代の経済的可能性』を読み解いていきたいと思います。

「一日3時間勤務、週15時間労」の真相

百年後の世界、ニ〇三〇年ごろの世界には、人びとの生活は経済的にみて、どのような水準になっていると予想できるのだろうか。

『ケインズ説得論集』(日経ビジネス文庫)265ページ

ケインズは本書の中に収められた『孫の世代の経済的可能性』という論文の中で、次のように提題しています。

ケインズがこの論文を執筆したのは今から約100年前の1930年。100年前の経済学者から見て、現代をどのように描いていたのかを知る大変貴重な資料です。

1900年代前半の頃は、産業革命によってあらゆる産業の生産性が爆発的に向上している真っ最中でした。アメリカでは製造業の一人当り生産量がたった6年(1919年→1925年)で40%も増加していたそうです。あまりに急速に生産性が向上したせいで、多くの労働者が不要になり、町には失業者があふれていました。

これほど劇的な経済変化ですから、ケインズは『近い将来に、農業、鉱業、製造業の生産は、従来の4分の一の労働で達成できるようになるだろう』と述べています。

生産性が劇的に向上するとどうなるか。私たちが生きていく上で必要な食料や生活必需品は、大した労苦も無しに手に入るような社会が訪れます。ケインズは、このような社会が訪れることを有史以来の「驚くべきこと」と表現し、続いて次のように述べます。

今風の言葉を使うなら、「ノイローゼ」が一般的になると予想しなければならないのだろうか。(中略)

経済的な必要という刺激がなくなって、料理や掃除、縫い物には興味がもてないし、かといって、もっと興味がもてるものを見つけだすこともできない。

『ケインズ説得論集』(日経ビジネス文庫)273ページ

人間は何百年もの間、明日の食糧を確保するために朝から晩まで働き続ける生活を”本当に”送っていました。しかし、産業革命によって生産性が向上し、そんなに働かなくてもよくなるとどうなるでしょう。人間は働くこと以外に時間を使う術をもう忘れてしまっているので、空いた時間をどう潰せばいいか分からなくなり、最終的には精神を病むというのがケインズの予言なのです。

社会にノイローゼが広がらないために、ケインズはかの有名な「一日3時間勤務、週15時間労働」を提言し、限られた仕事をみんなで分かち合うようにすべきだ、と主張しました。

ケインズの主張まとめ
  • 生産性が向上する結果、人間がやるべき労働量は減少する。
  • 多くの仕事が無くなり、失業者が増える可能性がある。
  • 人間は長い間、労働以外の時間の使い方を忘れてしまっているので、時間を持て余した失業者の間でノイローゼが広がる。
  • このような事態を防ぐために、「一日三時間勤務、週15時間労働」を導入して、限られた仕事をみんなで分かち合う体制とするべきだ!

ケインズの予言は当たったのか?

さて、現代社会を見渡してみるとどうでしょう。ケインズは、「人間は働く必要が無くなり、暇を持て余した人の間でノイローゼが広がる」と言いましたが、我々は相も変わらず、一日8時間勤務(週40時間労働)をしています。

ただし、ここで興味深いのは、我々は一日8時間勤務をしながらも、多くの人がノイローゼになっている、という事実です。

ベストセラー書籍『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』によると、なんと4割もの人が「自分の仕事に意味があるとは思えない」と感じてながら働いているそうです。

100年経って生産性はさらに向上したのに、一日8時間勤務を守るため、たいして必要でもない仕事をやっている。そして、自身の仕事のあまりの中身の無さに「やりがい」や「働く意味」を見いだせず、ノイローゼになっていく……。

現代社会の状況
  • 生産性が向上する結果、人間がやるべき労働量は減少した。
  • それでも、一日8時間勤務は変わらなかった。代わりに、たいして必要のないことまで仕事としてやるようになった。
  • 自身の仕事のあまりの中身の無さにノイローゼになる人達が現れた。

私は今、日本のメーカーで働いていますが、「やる意味のない仕事が蔓延している」状況を目撃することがあります。例えば、

生産工程を無人化できる技術は既に存在するのに、機械を導入するよりも派遣労働者を雇う方が安いために、人間に単純作業の繰り返しを永遠とやらせている。

テーマの進捗状況を管理する人。その管理者がちゃんと管理しているのかを管理する人。その管理者がちゃんと管理しているかをさらに管理する人……(以下略)。

「一日8時間働くためだけの仕事作りはもう辞めませんか?」。ケインズが現代に生きていたら、きっとこう言っていたのではないでしょうか。長時間働かなくても社会が回るような制度や社会のあり方について、真剣に考えるべき時代に入っているのかもしれません。

本書を読むと、今まで「当たり前」とか「仕方ない」と思っていたことの「異常さ」に気づくことができます。ぜひ皆さんも本書を読んで、ケインズの思想に触れてみて下さい。

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