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【解説】『現代経済学の直観的方法』【資本主義社会の未来とは】

今回は、『現代経済学の直観的方法』という本を読みましたので紹介します。

目次

『現代経済学の直観的方法』簡単解説

本書は、独立研究者である長沼伸一郎さんが、経済のことがまったくわからない読者向けに、経済の本質について解説した本です。

「ビジネス書大賞2020」候補に選出されたことでも話題となりました。

内容は「資本主義」から「インフレとデフレ」、「貨幣」、「仮想通貨とブロックチェーン」まで多岐に渡ります。

著者は理系出身であることもあり、経済の仕組みを理論立ててしっかり解説してくれる点が本書の特徴と言えます。

以下の項で少しだけ内容を解説していきます。

「レア度を下げる」ことで富が生まれる

近年はGAFAに代表されるような「超巨大企業」が続々と誕生しています。

このような企業は一体なぜ莫大な利益をあげることができるのでしょうか。

「社会に”価値”を提供しているから」、「生活を”便利”にしているから」というのがよく言われる答えです。

しかし、”価値”とか”便利”と言われてもなかなか想像しにくいのが本音ですよね。

著者はよりイメージしやすい答えとして、「資本主義社会においては”レア度を下げる”(=縮退する)ことで富が生まれている」と説きます。

例えば、ほんの十数年前は友人同士で近況を語るにも、まずは一人ずつe-mailを送信して日程調整し、それからカフェなどに集まってお話しするのが普通でした。

それが今では、LINEグループを作ると一瞬で日程調整できますし、そもそも直接会わずともFacebookやTwitterで友人の近況を知ることができます。

段取りの末にカフェに友人数人が集まっているという「レア」な状態から、部屋で一人でスマホを眺めるという「低レア」な状態に社会を移行させる過程でGAFAのような企業は利益を生んでいたわけです。

つまり現代社会の富は、単に巨大企業自身が活発化しているというより、昔の時代からの伝統や習慣で長期的に整っていた社会生活のシステムが、壊れて縮退する過程でしばしば生まれており、むしろ後者がメインとなって経済社会では富が引き出されているのである。

『現代経済学の直観的方法』383ページ

過去の伝統や習慣を壊し、社会を「レア」→「低レア」に移行させることで企業は富を得ているという視点は、非常に斬新だと感じます。

経済活動の果てで人間は「植物状態」に!?

現代の巨大企業は、人間の「ラクしたい」、「繋がりたい」といった”欲望”を簡単に叶えてあげるることで利益を生み出してきました。

そして、筆者はこのような経済活動に伴う社会の変化を「レア→低レアへの移行(=縮退)」と表現しました。

社会の「低レア化」さらに進んだ先には、一体どんな未来が待っているのでしょうか?

筆者はここで、次のような思考実験を行います。

ここで一つの想像として、「快楽カプセル」というものを考えてみよう。つまり人間一人が入れるカプセルがあって、その中で仮想現実のゲームに浸っていると、そうした薬物の助けを借りて脳内の幸福物質=ドーパミンなどか効率良く分泌されるとするのである。

『現代経済学の直観的方法』404ページ

部屋で寝たままの状態でも人間の欲望を叶えられる究極の装置を「快楽カプセル」と表現しています。

順調に社会が経済活動を続けていくと、最終的に企業はこの「快楽カプセル」を開発すると言うのです。

そして、それは「VR」という名の装置を介して、今まさに現実になろうとしています。

Facebookが社名を「Meta」に変更し、メタバース(仮想現実)に注力すると発表したのもつい最近のことでした。

家に帰ればすぐにVRゴーグルを取り付けて仮想現実世界に没入し、そこでのコミュニティやゲーム体験などで快楽物質(=ドーパミン)が与えられる。

VRで仮想現実世界に没入する様は、まさに「植物状態」の人間を彷彿とさせます。

休日は誰も家から出てこない。家族で外出することもない。みんなVRゴーグルをつけている。

数十年後にはこれらが当たり前になっているかもしれません。

「幸福」とはなにか考え直す

資本主義社会では、「人間の欲望(こんなことができればいいな、あんなものがあればいいな)を一個ずつ実現していくことで、社会がより豊かになり、人々はより幸福になる」を前提としています。

しかし、企業が技術革新を行った先で「植物状態」の人間が量産されるのであれば、どうやら先ほどの資本主義の前提は間違っているようです。

「社会に物やサービスが溢れることと、人間が幸福に暮らすことは別である」と捉え直し、幸福とはなにかをもう一度考える必要があると感じます。

筆者は人間が幸福であることの定義として、『想像力』の有無を挙げています。

そして、物やサービスによって人間の欲望が簡単に叶えられるようになると、「想像力」が働く余白が、かえって小さくなり、不幸の原因になり得ると述べています。

ビジネスで成功して大金持ちに成った末に、現実に絶望して自殺する人がいるのも示唆的ですよね。

どこかで物質的な欲望に線引きをし、自分が本当に幸せを感じるものはなにか知ることが今後いっそう大切なると思います。

以上、『現代経済学の直観的方法』について解説しました。

経済の知識が学べるだけでなく、資本主義社会や幸福のあり方についても考えさせられるオススメの本です。

ぜひ一読してみて下さい。

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