『[自然農法]わら一本の革命』簡単解説
『[自然農法]わら一本の革命』は、「農薬・化学肥料などを一切使わない”自然農法”を提唱し、科学技術がもてはやされる現代社会に一石を投じた哲学的な本」です。
著者の福岡正信さんは、税関検査の職に就いた後、心機一転して山に入り、百姓となった異色の経歴を持つ方です。無肥料、無農薬という「自然農法」によって、現代農業をはるかに超える収穫量が得られることを示しました。
本書では、そんな「自然農法」に辿り着くまでの道のりや、現代の科学技術信仰に対する危惧が語られています。
「農業や家庭菜園に興味のある方」、「科学技術の信仰に疑問を抱いている方」におすすめの本です。
「無の哲学」の実践
本書のタイトルにもある「自然農法」とは、一体何なのでしょうか。本書ではまず、「自然農法の四大原則」なるものが紹介されています。
- 不耕起
- 無肥料
- 無農薬
- 無除草
現代の農業では「畑を耕し、化学肥料や農薬をたくさん散布し、こまめに除草する」が当たり前の常識となっています。しかし、福岡さんが実践する「自然農法」では、それと完全に真逆のことを行うのです。
「人間は本来、何もする必要が無い」という確信に基づいて農業を突き詰めた結果、福岡さんはこのような「自然農法」に行き着きました。
「不耕起・無肥料・無農薬・無除草で本当に作物が育つのか?」と疑問を持ちますが、この自然農法によって現代の一般的な農法と同等以上で米や麦が収穫されていると言います。
一体どうして、福岡さんは「自然農法」を突き詰めようと思いたったのか。福岡さんは税関検査の仕事に勤めていた二十五歳の頃、突然、次のような思想が頭に降りてきたと言います。
「人間というものは、何一つ知っているのではない、ものには何一つ価値があるのではない、どういうことをやったとしても、それは無益である、無駄である、徒労である」。
『[自然農法]わら一本の革命』(春秋社)8ページ
科学がどれだけ発達しても、たぶん人間は、自然を完全に理解することはできないんじゃないかな。
頑張って地位や名誉を得たところで、人間の幸せとは別だし、自分たちが勝手に”意味がある”と思い込んでるだけだよね。
誰もが様々な形で一度は「まぁ、そうかもしれないな…。」と考えるようなことですが、福岡さんはこのような「何一つ知らない、何一つ価値が無い」という思想がなかなか頭から離れませんでした。ついには人生を賭けてこれを確認してやろうと考え、若くして山に入り、百姓になって自給自足の生活を始めます。
そして、長い年月をかけて現代の常識を完全に覆す「自然農法」が誕生し、自然の力は人間が発明した化学肥料や農薬の効果をも凌駕する潜在能力が備わっていることを示したのです。
なぜ、科学は”役に立つ”ように見えるのか?
最先端の科学技術に基づいて作られた化学肥料や農薬は、データでその効用が裏付けされているはずです。それにも関わらず、「無肥料・無農薬で作る自然農法の方が収穫量が多い」というのは矛盾のように感じます。
これは一体どういうことでしょうか。
そういうものが必要だ、価値があることだと思い、効果があるように思うのは、結局、人間が先に悪いことをしているからなんです。価値があるような、効果が上がるような条件を、先に作っているということなんです。
『[自然農法]わら一本の革命』(春秋社)20ページ
- 化学肥料があたかも”効く”ように見えるのは、その前に、人間が土壌環境を荒らしてしまっているからである。
- 農薬を散布しないと害虫の発生を抑制できないのは、その前に、害虫が大量発生するほど人間が生態系のバランスを崩してしまっているからである。
筆者はこう述べています。
科学者が成果を挙げているように見えているのは、いわば「人類の自作自演」とも言えます。本来はそのような科学技術が無くとも自然の豊かさだけで十分な収穫量が得られることを、私たちはとっくの昔に忘れてしまっているのかもしれません。
さいごに
私たちは科学技術がもてはやされる時代に生きています。
農薬や化学肥料に限らず、新しい材料や医薬品などが開発されることに私たちは一種の”万能感”を感じますが、自然からすれば、そんなものは人間の”おままごと”に過ぎないのかもしれません。
本書に感銘を受け、不可能と言われた「リンゴの無農薬栽培」を実現した農家の木村秋則さんは、『奇跡のリンゴ』という本の中でこう語っています。
どんなに科学が進んでも、人間は自然から離れて生きていくことは出来ないんだよ。だって人間そのものが、自然の産物なんだからな。自分は自然の手伝いなんだって、人間が心から思えるかどうか。人間の未来はそこにかかっていると私は思う。
『奇跡のリンゴ』(幻冬舎)245ページ
「自然の手伝い」。はっとさせられる言葉です。
私は今メーカーの研究職として”環境にやさしい”材料の開発をしていますが、人類からの視点ではなく、「自然が最大限に力を発揮できるにはどうしたらいいか」という視点は今後忘れずに持っておきたいと感じました。
本書を読んで興味を持った方は、ぜひ手にとって読んでみて下さい。
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