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【感想&解説】『海洋プラスチックごみ問題の真実』を読んで

目次

『海洋プラスチックごみ問題の真実』を読んで

『海洋プラスチックごみ問題の真実』は、「海に増え続けているプラスチックごみの実態を明らかにし、ごみ問題を解決するための正しいアプローチを考える本」です。

著者の磯辺篤彦先生は、九州大学で海洋物理学を専門とする、海洋ごみ研究分野のトップランナーです。

海にプラスチックごみが増え続けると将来どうなるのか、どんな悪影響が想定されているのか…。本書では一般の人でも分かりやすい言葉で解説されています。

「環境問題に興味がある方」、「ものづくりの分野で働いている方」におすすめの本です。

海洋ごみはどこから来ている?

最近、「海洋ごみ」がニュースなどでも取り上げられるようになりました。

ウミガメが漁網に絡まって死んだ写真や、哺乳類の胃袋から大量のプラスチックごみが見つかった写真など、ショッキングなものばかりです。「2050年には海洋ごみの総量が海に生息する魚の総量を超える」という信じがたい報告もあります。

海洋ごみは一体どこから来ているのでしょうか。海水浴場の観光客がごみをポイ捨てした結果なのでしょうか。

実は、大部分の海洋ごみの起源は、私たちが生活する「街の中」なのです。

そして、実験結果が示す通り、プラスチックごみは川を経て海へやって来ます。街で不用意に捨てられたプラスチックごみは、最初は街中の小さな川に入って、そして大きな川に合流し、最後は海へ出ていくのでしょう。街と海は川で繋がっているのです。

『海洋プラスチックごみの真実』(科学同人)36ページ

「街中に捨てられたごみはボランティアの誰かが最終的に拾ってくれている」と思っていませんか。実は、ごみの多くは風雨で流されてまず川に流れ込み、河口を通り、海へ流れ出ているのです。私たちはこの事実を受け止めなければなりません。

プラスチックごみの何が問題なのか?

「海に流出したゴミが景観を損ねる」「動物たちが誤飲する」などはもっとも分かりやすいゴミの問題ですが、プラスチックごみには他にも大きな問題があります。

海洋プラスチックごみの問題点
  • 汚染物質の吸着
  • 添加物

海洋プラスチックごみの問題点の一つは、「汚染物質の吸着」です。

川や海の水には、普段からごく微量の有害物質が存在しています。通常の濃度であれば生物たちに影響を及ぼしませんが、海洋プラスチックごみは水中の有害物質を吸着しやすい性質があり、ゴミの表面で有害物質が濃縮されることが分かっています。もし有害物質を濃縮したごみを生物たちが誤飲しているとするばらば、少なからず生態系に影響を及ぼしている可能性があります。

海洋プラスチックごみのもう一つの問題点は、「添加物」です。

プラスチックには加工性や機能性を付与するために種々の添加剤が配合されています。近年は安全性が厳しく管理されるようになったために有害な添加物が配合されることはほとんど無くなりましたが、過去には安全性よりも機能性を重視していた時代もあり、そのような時代のプラスチック製品が今ではゴミとして海を漂っています。海洋ごみは時代を越えて影響が残り続けるのです。

マイクロプラスチックの問題点

プラスチックは、太陽光が当たり続けると劣化が進行し、細かい破片となっていきます。サイズが約5mm以下となったプラスチック片は「マイクロプラスチック」と呼ばれ、現在、環境への悪影響が懸念されています。

マイクロプラスチックの問題点
  • 汚染物質の摂取
  • 粒子毒性

マイクロプラスチックが懸念される理由の一つは、「汚染物質の摂取」です。

汚染物質がプラスチック表面に濃縮することは先に解説しましたが、マイクロプラスチックのようにサイズが小さくなると、小魚や貝など比較的小さな生物も誤飲するようになり、広い範囲の生態系に影響が及ぶと懸念されています。生物実験においては、マイクロプラスチックを摂取したメダカが肝機能に障害を引き起こすことなどが実際に分かりつつあります。

マイクロプラスチックが懸念されるもう一つの理由は、「粒子毒性」です。

マイクロプラスチックを誤飲することは、栄養の無い物質でお腹の中が満たされることと同義です。マイクロプラスチックを食べるために無駄なエネルギーも消費されてしまいます。ただでさえ粒子毒性が懸念されているマイクロプラスチックの表面に汚染物質まで吸着されているとすれば、生態系への影響が懸念される理由も想像できます。

私たちにできること

海洋プラスチックごみを減らすために、私たち一人一人ができることは何でしょうか。

  • ごみの分別を徹底してリサイクルに協力する
  • ポイ捨てをしない

このような「ゴミ処理方法の改善」がすぐに思い浮かびます。しかし残念ながら、「海洋汚染問題の本質は処理の方法ではない」と著者の磯辺先生は指摘します。

問題の本質は、焼却や再利用、あるいは埋め立てといった処理方法の選択ではありません。どの処理経路にも乗らず環境中に漏れた、この一パーセントが問題となっているのです。

『海洋プラスチックごみ問題の真実』(化学同人)磯辺篤彦

日本は世界に先駆けてごみ回収やごみ処理システムを成熟させた国です。街に落ちているゴミも少なく、きれいな国として認識もされています。しかしながら、そんな日本からも毎年10万トン強のプラスチックごみが環境中に流出していると言われています。日本の年間プラスチックごみ廃棄量900万トンのうちたったの1%程度ですが、数量にしてみたら膨大な量です。

どんなにごみ処理システムを成熟させたとしても、最後の1%はどうしても漏れが生じて環境中に流出してしまう。日本は世界に先駆けて、この事実を証明したのです。

最後の1%がどうしても流出してしまうなら、一体どうすればいいのか。大事なことは、「プラスチック使用量そのものを減らすこと」です。

私たちはレジ袋、商品包装、カフェのストローなど、当たり前のようにプラスチックを使い捨ててきました。しかし、環境汚染の実態が明らかになってきた今、行動を考え直さなければなりません。身の回りの小さなことから始めてプラスチック使用量を少しずつ削減していくことが、これからの時代は大事になるのではないでしょうか。

以上、本記事では、『海洋プラスチックごみ問題の真実』を紹介しました。

海洋ごみ問題について詳しく知りたい方は、ぜひ本書を手に取って読んでみて下さい。

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