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【感想&解説】『予想どおりに不合理』【人間は”感情”で動いている】

『予想どおりに不合理』という本が、人間の心理を暴く興味深い本でした。

目次

『予想どおりに不合理』簡単解説

『予想通りに不合理』は、「人間がいかに不合理(非合理的)な生き物なのか」を様々な心理実験から明らかにしていく本です。

著者のダン・アリエリーは行動経済学を研究する大学教授です。本書では様々な行動経済学の実験が具体的に紹介されており、人間がどんな環境でどんな行動を起こすのか、イメージしながら読み進めることができます。

「人間心理に興味のある方」「人間の思考回路を知りたい方」などにおすすめの本となっています。

人間はモノの「価値」をどう判断しているか

私が本書を読んで特に印象に残った、「2章 需要と供給の誤謬ごびゅう」について少し紹介したいと思います。

私たちは、「モノの値段(価値)は需要と供給のバランスで決まる」と思っています。たくさんの人が欲しがれば値段が高くなり、誰も欲しがらない物はバーゲンセールで安売りされる、と。

しかし、現実の世界はそう単純ではないようです。

筆者は、モノの値段が需要と供給のバランスだけでは決まらないことを示す例として「黒真珠を高級にした男」の話を挙げています。

1970年代、”真珠王”と呼ばれていたサルバドール・アセールは通常の白い真珠に加えて黒真珠を売ろうと思いつくが、色も形も鉄砲玉のような黒真珠は人気も無ければ知名度も無く、一年経っても全く買い手が見つからない状況だった。アセールはここで、黒真珠の商売をやめたり、値引き価格で売りさばいてしまうこともできた。しかし、代わりに、旧友の宝石商を訪ねてニューヨークの五番街にある店舗のショーウィンドウに黒真珠を飾り、法外に高い値札をつけた。さらに、豪華なグラビア雑誌に全面広告を打って、ダイヤモンドやルビーとあたかも同等の価値があるように印象付けを行った。すると、どうだろう。黒真珠はあっという間に裕福なセレブたちの首に下げられて、マンハッタンを闊歩かっぽするようになった。

この話の中に、「需要と供給のバランス」といった要素は一切ありません。

筆者は、「黒真珠を高級にした男」の話を次のような言葉で表現しています。

アセールは、価値のはっきりしなかったものを、とんでもない高級品に変えてしまった。マーク・トウェインがかつてトム・ソーヤーについて書いたことばを借りれば、”トムは人間の行動の偉大なる法則を発見した。人に何かを欲しがらせるには、それが簡単には手に入らないようにすればいい”。

『予想通りに不合理』(早川書房)55ページ

よく、「羽化したばかりのヒヨコは最初に見た”動く物体”を母親と認識する」と言いますが、私たち人間も、最初に見た値札の値段をそのモノの価値と認識します。行動経済学の分野では、このことを「アンカリング効果」と言うそうです。

アセールはまだ世にほとんど知られていなかった黒真珠を「高級宝石店で」、「法外に高い値段で」、販売し始めました。そして、黒真珠はあたかも超高級品であるかのような広告戦略を展開しました。

今まで存在すら知らなかったようなモノが急に「超高級品」として世の中に出現してくると、私たちは最初に見たその値札にアンカーを打ち付けます。そしてそれ以降、「超高級品だからこのくらいの値段がしても全く不思議ではない」、「数千円の値札が付いていようものなら、それは間違いなくニセモノである」と判断するようになるのです。

モノの「価値」は最初の値付けで決まる?

私たちはルイ・ヴィトンのバッグが35万円すると言われても違和感を感じませんし、エルメスの財布が20万円すると言われても驚いたりしませんよね(機能的には数千円のものと何も変わらないとしても)。

それは、私たちが物心ついたときからルイ・ヴィトンやエルメスは高級ブランドとして存在しており、その値段に私たちはアンカーを打ち込んでいるからです。

そして同時に、これら高級ブランドは決して自分たちが”陳腐化”しないように決して安売りはせず、「庶民には手の届かないもの」の座を維持しています。

このように見ると、我々が考えるモノの「価値」は需要と供給のバランスで決まっているのではなく、実はある種の「思い込み」で決まっていたりすることが分かります。人間は大変に不合理な生き物なのです。

この本で紹介した研究からひとつ重要な教訓を引きだすとしたら、わたしたちはみんな、自分がなんの力で動かされているかほとんどわかっていないゲームの駒である、ということだろう。

『予想どおりに不合理』(早川書房)410ページ

さいごに

本書を読み終えて、「人間は”理性”よりも”感情”で動く生き物なんだな」と強く感じました。そして、我々の”感情”はこの資本主義経済を動かしている原動力であることも理解できました。

今、日本政府は「経済対策に力を入れる」と言っていますが、これは結局のところ、「国民の尻を叩いてなんとか家から引っ張り出し、お金を使わせるために種々のキャンペーン活動をする」という意味です。

これから、政府が、企業が、セールスマンが、どんな手を使って私たちの心を掻き立てていくのか。本書を読めば、今までとは違った視点で社会を見通すことができるかもしれません。

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