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【感想&解説】『The Changing World Order』を読んで

『The Changing World Order』読了。今後の世界情勢を行方を示唆する、羅針盤的な本でした。

目次

『The Changing World Order』簡単解説

『The Changing World Order』は、「過去500年の歴史における大国の勃興・衰退を分析しつつ、今起きている世界秩序の変化を明らかにした本」です。

著者のレイ・ダリオは、10兆円規模を運用する投資ファンドを一代で築いた、米国の著名な投資家です。

本書では、「米国の覇権国としての地位は衰退し続けており、次の時代の覇権国家として中国が勃興しつつある」ことが様々なデータで示されています。

「大国の勃興・衰退の歴史に興味がある」、「世界で今どのような変化が起きているのか知りたい」方にオススメの本です。

過去500年における世界の動き

現在、世界の覇権国に君臨しているのは「アメリカ」です。巨大な金融市場、巨大な軍事力、基軸通貨(米ドル)の地位を保持しています。

アメリカの覇権はずっと昔から続いてきたし、将来もずっと続くんじゃない…?

こう考えてしまいがちですが、歴史を振り返ると、覇権国家は”必ず”衰退し、新しい国家にその地位を奪われてきました。

大航海時代(1600~1750年)

大航海時代の1600~1800年の間、世界の覇権を握ったのは「オランダ」でした。世界初の株式会社である「オランダ東インド会社」が結成され、世界初の株式市場である「アムステルダム証券取引所」が設立されました。輸送用帆船を使ってアジアの貴金属・香料を輸入することで、オランダ東インド株式会社は一大経済圏を築きました。なんと「世界貿易の3分の1」を同社が占めていたそうです。オランダは金・銀以外で世界初の基軸通貨となる「ギルター」を生み出し、世界経済を支配しました。

産業革命(1750~1900年)

1700年代に入ると、「イギリス」で数多くのイノベーションが生まれ、オランダに代わって覇権を握りました。1712年に蒸気機関が発明され、「産業革命」が始まります。1719年に製糸機が発明されると、「工場制手工業」が発達し、生産性という概念が誕生しました。絶頂期には、「世界の輸出の40%」を支配し、「世界の陸地面積の20%以上」を植民地として支配していたそうです。金融の中心地は「ロンドン証券取引所」に移り、世界の基軸通貨として「ポンド」が多く使われるようになりました。

世界大戦、そして、自由資本主義社会へ(1900~現在)

1900年代に入ると、イギリスの衰退と共にドイツ、フランス、ロシア、アメリカなどが経済力・軍事力をつけて台頭し、力関係が均衡していきます。各国の緊張が高まっていた1914年、サラエボ事件を契機に「第一次世界大戦」が勃発。敗戦国となったドイツでは、賠償金の支払いのために国内経済が疲弊しました。すると、国民の不満・怒りがヒトラー政権を生み出し、「第二次世界大戦」へと発展しました。

第二次世界大戦ではイギリス、ソ連、アメリカが勝利したものの、イギリスとソ連は国土が戦争の最前線となっために多大なダメージを受け、相対的に「アメリカ」が富を得て世界的地位を築きました。また、「冷戦」を経てソ連が崩壊したのを機に、アメリカの地位は絶対的なものとなりました。金融の中心地は「ニューヨーク証券取引所」に移り、世界の基軸通貨として「ドル」が使われるようになりました。

世界秩序、変化の兆し(現在~)

第二次世界大戦の終結から現在までの約80年間、世界を支配してきたのはアメリカです。しかし、歴史の流れの中で覇権国は常に入れ替わってきたように、アメリカもまた、衰退の兆しを見せています。

アメリカの衰退が見られる指標の一つとして、「金融状況の悪化」が挙げられます。アメリカは対外資産に比べて対外債務の方が著しく大きく、政府の債務水準も高い状況です。また、アメリカでは「国内対立」も激しい状況です。民主党と共和党が互いに反発し、国の予算案が承認されず政治運営の危機に立たされています。世界各国の中央銀行における外貨準備資産を見ると、2000年に70%あった米ドルのシェアは、2022年に59%まで低下しています。「外貨準備における米ドルの比率低下」は、アメリカの影響力が低下している様子を反映しています。

世界の外貨準備:通貨別割合(IMF公表データを基に作成、人民元は2016年より公表開始)

アメリカが衰退の兆しを見せる中、次の覇権国となり得るのはどの国でしょうか。著者によると、それは「中国」になると述べられています。中国は債務負担が軽く、今後も高い成長率が見込まれています。また、中国は世界の輸出の14%を占めており、経済規模でも世界の22%を占めるなど、世界経済で重要な地位を築いています。教育水準は高く、イノベーションの強さでも米国に肉薄している状況です。外貨準備における中国の通貨「人民元」は、年々比率が上がってきています。

最近になってアメリカは中国に対して「半導体輸出規制」を強めるなど策を講じていますが、これはアメリカが「このままだと世代交代されてしまう!」という危機感の強い表れに他なりません。過去の歴史の中で、覇権国家は”必ず”衰退した事実を考えると、アメリカと中国の力関係が今後どうなっていくのか、注目に値します。

世界秩序の変化(概念例):『The Changing world order』(日本経済新聞出版社、61ページ)図を参考に作成

『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』

過去、覇権国が移り変わる歴史的瞬間に遭遇した資産家や投資家たちは、あまりの急激な変化に対応できず、多くの富を失ってきたと言います。

なぜ、私たちは「時代の変化」に対応できないのでしょうか。

覇権国の移り変わりは「約100~200年に1回」のサイクルで起きています。つまり、私たちがそうした時代の転換点に立ち会うのは「人生で初めての出来事」になるため、覇権国が本当に入れ替わるというイメージが出来ておらず、どう対処したらいいかの準備も出来ていないのです。

今こんな強いアメリカが衰退する未来なんて想像がつかない…

S&P500はこれまでずっと上がり続けてきたから、今後も上がり続けるはず…

「自分が歩んできた人生の範囲で物事を判断していると、時には方向性を間違うこともある」ことに本書は気づかせてくれます。

『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』-オットー・フォン・ビスマルク

自身の経験だけでなく過去の歴史も含めて考えることが、正しい道を選ぶ上で重要なのではないでしょうか。

以上、本記事では『The Changing World Order』を紹介しました。

「歴史が好きな人」、「海外へ株式投資している人」には特にオススメの一冊です。

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