『それでも人生にイエスと言う』が、「人生の意味」を問う壮大な作品でした。
『それでも人生にイエスと言う』簡単解説
『それでも人生にイエスと言う』は、「人間とは何か、生きる意味とは何か」を問いかける哲学的な作品です。
著者のV・E・フランクルは19世紀を生きた精神科医です。第二次世界大戦下、ユダヤ人であることを理由にナチス収容所に収容され、過酷な生活を経験をしました。
フランクルはナチス収容所という極限環境で人間が何を考え、どんな行動をとるか目の当たりにし、「人間とはなにか、生きる意味とはなにか」について考えを深めていきました。
本書は、そんなフランクルが戦後に行った講演活動をまとめたものになります。
自殺にいたる4つの理由
今日の日本では、「自殺」が社会問題となっています。特に、2020年~2021年のコロナ下では、自殺者が急増しているそうです。
人が自殺を決断してしまうのはどんな理由からなのでしょうか?
フランクルは、精神科医としての経験や戦争体験から、自殺にいたる理由は4つに分類されると述べています。
- 身体状態
- 身体の状態が優れず情緒不安定に陥る
- 復習欲
- 他人に対して罪の意識を負わせる
- 精神的疲労
- 生きることに疲れる
- 人生の無意味感
- 人生に意味が見出せない
「①身体状態」と「③精神的疲労」はある種の”病気”に分類されます。そして、「②復讐欲」は家庭環境が著しく悪かったり、事件に巻き込まれた場合など、特別な事情がある場合に生まれるものと分類されます。
フランクルが最も問題視しているのは、「④人生の無意味感」です。
これは、もともと正常な身体・精神状態の人間が、特別な事情や病気でないにも関わらず(もしくは、特別な事情が無く平凡な人間であるがために、)「自分なんか生きていても無意味なのではないか」と考え、自殺してしまうパターンです。
現代社会において、「人生の無意味感」は深刻な問題になっていると思います。
「やりたいことがない、好きになれるものが見つからない」と言う若者が取り上げられ、一方では、「好きなことで生きていく」が理想であるかようなキャンペーンも、インターネット等で頻繁に目にしますね。
「好きなことが見つからない」若者と、「好きなことで生きていく」を煽る社会。
この狭間で、「やりたいことがない無気力な自分は、このまま生きていても社会のお荷物になるだけではないか」と思い悩む人が増えてしまうのは、当然の事かもしれません。
「生きる意味」を問うことの危険性
フランクルは「人生の無意味感」を感じる人に対して、「生きる意味とはなんだろうか」と問うのではなく、「人生は私になにを期待しているか」と問うことが大事であると説きます。
私たちが「生きる意味があるか」と問うのは、はじめから間違っているのです。つまり、私たちは、生きる意味を問うてはならないのです。人生こそが問いを提起しているからです。私たちは問われている存在なのです。私たちは、人生がたえずそのときそのときに出す問い、「人生の問い」に答えなければならない、答を出さなければならない存在なのです。
『それでも人生にイエスと言う』(春秋社)27ページ
フランクルがナチス収容所で経験した生活は、生きる意味を見出すことがとても難しいような過酷な毎日でした。
服も金品も家族も友人も肩書も全て剥奪され、ガス室に送り込まれるまでの間、労働作業に駆り出される日々。「あきらめるな。人生に期待し続けろ!」と言う方が酷かもしれません。
しかしフランクルは、そんな極限の状態の中においてもなお、生きることを止めなかった人たちが確かに存在していたと言います。彼らの命を繋ぎとめたのは、ある人は残された未完の学問上の著作であり、ある人は残された子どもたちでした。
「自分が人生で何を期待しているか」ではなく「人生は自分に何を期待しているか」と問う発想の仕方が、彼らの命を繋ぎとめていたのです。
人生とはなにかをする「機会」である
私たちは時として「自分探し」に走ります。私も大学生の頃、「自分が本当にやりたいことはなにか」を見つけたいと思って、旅行してみたり、学生団体に参加したりしました。
しかし、当時はいくら探しても、自分を掘り下げていっても、「これだ!」と思える自分のやりたいことは見つかりませんでした。
この本を読み終えてから改めて当時を振り返ると、「自分がやりたいことは何か」ではなく「自分が社会に貢献できることはなにか」と考えるべきだったように感じます。
「ここなら自分でも貢献できそうだな」という場所で社会から求められることをやっていく。それが「生きる」ことであり「働く」ことであると考えると、新しい発見があるのではないでしょうか。
「個人」がもてはやされる時代において、”共同体の中の人”として振る舞う生き方を推奨するフランクルの理念は、非常に新鮮であり、考えさせられました。
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