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【感想&解説】『大地の5億年』を読んで【知られざる”土”の歴史】

目次

『大地の5億年』簡単解説

『大地の5億年』は、「5億年という長い年月をかけて形成された”土”を舞台にして、土と動植物の共生関係や自然現象の神秘を解き明かしていく本」です。

著者の藤井一至さんは土壌学・生態学を専門とする研究者です。世界各地の土壌を求めて飛び回る傍ら、土の神秘を伝えるべく精力的に執筆活動もされています。

本書ではまず、地球上で土が形成された過程を解説した後、土が動植物の繁栄をもたらし、人類史に与えてきた影響を明らかにしていきます。

「地球の歴史に興味がある」「土の機能・役割について知りたい」という方にオススメの本です。

大地の歴史

「土」の誕生(5億年前)

私たちの身の回りには「土」が存在しています。近所の公園、近所の畑、近所の山…。当たり前のように思えますが、土は他の惑星には存在していない「地球の特産物」であると聞くと、多くの人が驚くと思います。

どのようにして、地球上に「土」が誕生したのでしょうか?

地球が46億年前に誕生してから長い間、地表は月面のようにゴツゴツした岩石で覆われており、とても生物が生息できるような環境ではありませんでした。そんな中、5億年ほど前に生物が初めて、海から地上に進出してきました。「コケ」「地衣類」(カビと藻類が共生する生物)です。

地衣類の仲間(Wikimedia Commons

彼らはどうやって、岩石に覆われた地表で生きる術を見出したのでしょうか。

コケも地衣類もれっきとした生物であり、生きるためにミネラルなどの栄養分が必要です。水中であれば水に溶けた金属イオンの状態で比較的簡単に摂取できますが、ガチガチに硬い岩石の上では簡単に手に入りません。

そこでコケや地衣類は、光合成によってつくった貴重な糖分で酸性物質(有機酸)を合成し、その酸で岩の表面を溶かしてミネラルを摂取するという驚くべき方法を編み出し、地上に進出した初めての生物となりました。

溶かされた岩石の一部は摂取されずに残り、砂や粘土を形成します。そして、コケや地衣類の死骸と砂・粘土が混ざり合うことで、地球上に初めて「土」が誕生しました。

「シダ植物」の出現(4億年前)

コケや地衣類が地表に進出してから少しずつ土が堆積し、多様な生物が生息できる環境が整い始めます。コケや地衣類の次に地上で繁栄したのは、4億年ほど前に登場した「シダ植物」でした。

シダ植物の仲間(Wikimedia Commons

シダ植物は水・栄養分を運ぶ根と維管束を持つ点でコケや地衣類とは異なっており、我々がイメージする植物の最古の祖先と言えるかもしれません。

シダ植物は地球上で大繁殖し、始めて「森」を形成しました。大量の枯死が堆積することで豊かな「土壌」を生み、さらに繁殖が加速するという好循環を生んでいきます。大繁殖したシダ植物が空気中の二酸化炭素を吸収した結果、4億年前~3億年前の1億年間で気温が7℃も低下。地球全体で寒冷化が起こって極地では氷河が形成され、海水面はなんと数百mも低下したそうです。

「裸子植物」の登場(3億年前)

3億年前、シダ植物が繁栄していた地表に新しいタイプの植物が登場します。「裸子植物」です。

ソテツ類:裸子植物の仲間(Wikimedia Commons

裸子植物は多くの点で他の植物と異なっていました。その一つが「リグニンと呼ばれる物質の生成・利用」です。

3億年前の地上には昆虫なども既に登場しており、植物にとっては天敵(害虫)でした。また、植物同士でも太陽の光を求めて競争が繰り広げられていました。

裸子植物はリグニンと呼ばれる硬い物質を生成し、今我々が知っているような硬い木の幹や葉をつくることで、害虫に対する防御機能を獲得しました。また、リグニンを成分に含む幹は物理的に強く、他の植物よりも背を高くして、太陽の光を独占することに成功しました。

裸子植物の繁栄は土の環境にも変化を及ぼしました。というのも、リグニンから形成された植物の枯れ木は土の微生物にとって分解しにくかったので、有機物としてそのまま体積していったのです。この年代に形成された有機物層は長い年月をかけて地中深くに埋まり、やがて地下の高熱・高圧条件で「石炭」となりました。

今私たちがエネルギー源として使っている石炭は、もともと3億年前に登場した裸子植物たちの死骸だったんですね。

「キノコ」の登場(2.5億年前)

裸子植物は自分の幹や葉をリグニンからなる硬い鎧で覆うことで競争に打ち勝ちましたが、一方で土の微生物には分解されにくく、枯死がそのまま堆積していきました。

この裸子植物の死骸に目を付けて2.5億年前に繁栄したのが「キノコ」です。

倒木に発生した野生のシイタケ(Wikimedia Commons

キノコは硬いリグニンをも分解できる特殊な酵素を獲得し、硬い樹皮や葉の奥に眠る美味しい成分(セルロースなど)にアクセスできる仕組みをつくりました。キノコ厳しい自然界において、土の微生物が食べない部分をあえて食料にするという、ニッチな生存戦略をとったのです。

リグニンを分解するキノコ類の登場は、地球史上最大の石炭蓄積時代(石炭紀)を終焉させたとも言われています。これによって、長らく停止していた自然のエネルギー循環が再開されることになりました。キノコ、恐るべし…。

人類と「土」の関係

我々は今、5億年もの長い年月をかけて形成された豊かな大地のおかげで、エネルギー源として石炭・石油を利用できるのはもちろんのこと、農業をして食料を生産したりすることもできています。しかし、食物を栽培して収穫することは、土壌から栄養素をはぎ取っていることと同義です。豊かな土壌も”有限の資源”なので、しっかり維持・管理しなければすぐに食料を生産できない土壌環境になってしまいます。

畑の風景(Wikimedia Commons

豊かな土壌を維持・管理するため、先人たちは知恵を振り絞って努力を行ってきました。例えば、江戸時代の農家は肥料として「人間のフン尿」に目を付けていました。フン尿には吸収されなかった栄養素が多く含まれており、肥料として優れているのです。江戸ではフン尿が5段階に格付けされ、贅沢な生活をしていた大名が住む屋敷のフン尿は特に高値で取引されていたそうです。

産業革命以降は化学が目覚ましく発展し、1906年には空気中の窒素からアンモニアを合成する方法が開発され(ハーバー・ボッシュ法)、化学肥料が利用できるようになったことで食料生産量の増加と人口爆発を生みました。今、私たち人間の体に存在する窒素のおよそ半分は、ハーバーボッシュ法で作られたものと言われています。

人類の運命は「土」に左右されていると言っても過言ではないのです。

さいごに

本記事では、『大地の5億年』について紹介しました。

土が誕生した歴史から人類と土の関係まで、とても大きなスケール感でありながらどこか馴染みのある話が次々と展開されていきます。この本を読んで土の神秘に触れれば、きっと皆さんも土を見る目が変わること間違いありません。

「もっと詳しく知りたくなった!」という方はぜひ本書を読んでみて下さい。

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