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【感想&解説】『社会的共通資本』を読んで【理想的な社会の姿を考える】

目次

『社会的共通資本』簡単解説

『社会的共通資本』は、「”ゆたかな社会”を実現させるにあたって、政治や経済のあるべき姿を論じた本」です。

著者の宇沢弘文は日本の著名な経済学者。「あらゆるものを市場競争に委ねる自由資本主義は人々の格差を助長させる」と主張し、「人間が生活を営む上で必要不可欠なもの(インフラ、教育、医療、自然環境など)は市場競争に委ねず、専門的知見に基づいて管理するべきである」と提言してします。

「資本主義社会はどうあるべきか」、「格差をどうすれば是正されるのか」…。このようなテーマに興味のある方にオススメの本です。

ゆたかな社会とは

「ゆたかな社会」を実現するためにはどうすべきか?

このような論題がテレビなどでよく議論されますが、そもそも、「ゆたかな社会」とは一体どんなものでしょうか?

宇沢は「ゆたかな社会」を次のように定義しています。

  • 自然環境が保全されている
  • 清潔で快適な生活環境が用意されている
  • 子どもたちが能力を伸ばし、社会性を高めうる教育環境が用意されている
  • 医療サービスが十分に整っている
  • 希少資源が効率的かつ均等に配分されうる社会制度が整っている

市民全員がこれらの恩恵に授かることのできる社会は、我々の考える「ゆたかな社会」像にも合致するのではないでしょうか。

社会的共通資本の重要性

宇沢は「ゆたかな社会」を定義した上で、「社会的共通資本」の重要性を説きます。

「社会的共通資本」とは

市民の基本的権利を守るために重要な役割を果たすものの総称。具体的には、自然環境(土地、大気、土壌、水など)、社会インフラ(都市、教育、医療、金融、司法、行政)などが含まれる。

社会的共通資本を管理しないとどうなってしまうのか。「環境問題」を例に振り返ってみましょう。

第二次世界大戦後、世界各国は民間企業などに対して、可能なかぎり自由な経済活動をさせる方針をとっていました。その根底にあったのは、「あらゆることを市場原理に任せることで効率化が進み、社会はどんどん”ゆたか”になる」という『自由資本主義』の思想です。

確かに、戦後は目覚ましい経済発展が起こり、身の回りには物資が溢れました。一方で、自由な経済活動を推進した結果、大気汚染や有害物質の河川流出などが放置され、日本では水俣病やイタイイタイ病などの公害問題が深刻化しました。さらに現在では、地球温暖化や海洋ごみ問題も多く取り上げられています。

企業が経済活動を促進して様々なサービスを提供することは大事な要素です。しかし、それと同時に、人々が生活を営む上で守らなければならないもの(社会的共通資本)は別できちっと管理することの重要性がよく分かる例と思います(失った自然環境や人々の健康は簡単に戻ってきませんからね)。

「社会主義」じゃだめなのか?

「社会主義」だったら、「社会的共通資本」が管理されて、ゆたかな社会が実現するんじゃないの?

このように考える方がおられるかもしれません。

『社会主義』とは、あらゆることを政府が一括で管理することで、経済の安定化や市民平等の実現を目指す考え方。19世紀のソ連や中国は社会主義の思想で運営されていました。

では、社会主義国であった当時のソ連や中国は「ゆたかな社会」を実現できていたのでしょうか。

結果はご存じの通り、「国家権力の肥大化による内部腐敗」、「労働者のモチベーション低下による経済低迷」などによって国家運営が困難となり、市民の不満が爆発。ソ連は崩壊し、中国もかなり資本主義的なシステムに転換して今に至っています。

『自由資本主義』では自然環境や社会インフラの安定的な維持・管理が難しい一方で、旧来の『社会主義』では国家運営そのものが困難であったことを歴史は物語っています。

「制度主義」という新しい考え方

じゃあ、一体どうすればいいのよ…。

歴史の教訓を生かすためには、自由資本主義でも社会主義でもない、新しい思想を再度練り直す必要があるように思います。

筆者はここで、『制度主義』という考え方を提言します。深堀りしてみましょう。

制度主義のもとでは、生産、流通、消費の過程で制約的となるような希少資源は、社会的共通資本と私的資本の二つに分類される。

『社会的共通資本』(岩波文庫)21ページ

『制度主義』ではまず、われわれが生活するために必要な資源(インフラや環境、物資など)を、「社会的共通資本」(生活を営む上で必要不可欠なもの)と「私的資本」に分けます。

そして、「社会的共通資本」については、民間企業でも政府でもなく、独立した機構が専門的知見に基づいて管理・運営を行います。民間企業は市場競争に晒されていますし、政府は政治的な”しがらみ”がどうしても存在してしまうからです。

『制度主義』の枠組みの中で「社会的共通資本」が安定的に維持されることで、市民の生活基盤が保証され、貧困や不健康に苦しむ人の数は大きく減ると考えられます。

『制度主義』はアメリカの経済学者ソースティン・ヴェブレンが初めに提唱したものであり、宇沢は本書でこの『制度主義』を強く支持しています。

さいごに

本記事では『社会的共通資本』について紹介しました。

20世紀には自由資本主義と社会主義を掲げる国がお互いに登場し、いずれも少なからず問題を抱えている思想であることが明らかになりました。21世紀は、これらに代わるより洗練された思想の台頭が望まれています。

日本では、岸田政権が『新しい資本主義』を掲げて社会の進むべき道を模索していますが、本書で紹介された「社会的共通資本」を重視した運営方法は参考に値するかもしれません。

本書を読んで、未来のあるべき社会の姿について皆さんもぜひ考えてみて下さい。

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