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【感想&解説】『エリック・ホッファー自伝』を読んで【さすらいの社会哲学者】

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『エリック・ホッファー自伝』簡単解説

『エリック・ホッファー自伝』は、その名の通り、「アメリカの社会哲学者エリック・ホッファーの一生を綴った自伝」です。

ホッファーは若くして両親の死、失明、自殺未遂などを経験するなど、壮絶な出来事を経験しました。日雇い労働者として職を転々としながら、40歳で港湾労働者(沖仲士)となり、肉体労働の傍らで精力的に執筆活動を行いながら今も読み継がれる著作を遺しています。

本書は、そんなホッファーの波乱万丈の人生を回想した作品です。

エリック・ホッファーの略年譜
  • 5歳:母の死
  • 5歳:突然、失明する
  • 15歳:視力が回復、本を貪り読む
  • 18歳:父の死
  • 18歳:家を出て貧困街へ、日雇い労働者になる
  • 28歳:自殺を試みるが未遂に終わる
  • 34歳:モンテーニュの『エセ―』を読み、著作活動を志す
  • 40歳:沖仲士(港湾労働者)になる
  • 65歳:沖仲士を引退、著作活動に専念

放浪する人生

ホッファーは5歳の時に母を亡くし、同時期に突然視力を失います。15歳で視力は回復したものの、長い間失明していたため、まともな義務教育は受けていなかったそうです。18歳で父も亡くしたホッファーは、一人でロサンゼルスの貧困街に移り住み、日雇い労働者として働き出します。

ホッファーは、彼の育児を担当していた女性から子供の頃に言われた「将来のことなんか心配することはない。お前の寿命は四十歳までなんだから。」という言葉を常に抱いて生活していました。というのも、家系は皆短命で、五十歳以上生きた者は実際に一人もいなかったのです。ホッファーは、28歳の時の心情を次のように回想しています。

歩き、食べ、読み、勉強し、ノートをとるという毎日が、何週間も続いた。残りの人生をずっとこうして過ごすこともできただろう。しかし、金がつきたらまた仕事に戻らなければならないし、それが死ぬまで毎日続くかと思うと、私を幻滅させた。今年の終わりに死のうが、十年後に死のうが、いったい何が違うというのか。

『エリック・ホッファー自伝 構想された真実』(作品社)41ページ

ホッファーは自殺しようとシュウ酸を溶かした水を口に流し込みますが、口の中に百万本の針が刺さったような痛みを感じ、水を全部吐き出します。その直後、街まで突然走り出し、カフェテリアで冷静さを取り戻します。

食事をとると、一本の道——どこへ行くのか何をもたらすのかもわからない、曲がりくねった終わりのない道としての人生という考えが、再び頭に浮かんできた。これこそ、いままで思いもよらなかった、都市労働者の死んだような日常生活に代わるものだ。町から町へと続く曲がりくねった道に出なければならない。(中略)

私は自殺しなかった。だがその日曜日、労働者は死に、放浪者が誕生したのである。

『エリック・ホッファー自伝 構想された真実』(作品社)46ページ

ホッファーは生死の狭間で「新しい人生観」を見出します。それは、「代わり映えのしない金太郎飴のような日常を繰り返すための人生」ではなく、「終わりのない一本道を、ナップザックを揺らしながら歩いていく人生」というものでした。

「人生はピクニックのようなもの」。このような人生観を得て以降、ホッファーは自身の人生に喜びを見出し、放浪者のように職と場所を転々としながら哲学を深めていきました。

レストランのウェイトレス、お果樹園での摘み作業、農夫の手伝い、砂金採取、等々。ホッファーが従事した仕事は多岐に渡ります。40歳の時、真珠湾攻撃を期に「国に貢献したい」という思いが沸き起こり、ホッファーは港湾労働者(沖仲士)として働き出しました。以降、65歳まで肉体労働を続けながらも精力的に著作活動を行い、現在まで読み継がれている名著を数多く残しました。今では、ホッファーは「沖仲士の哲学者」と評されています。

エリック・ホッファーの魅力

「終身雇用」が当たり前と言われていた日本社会において、ホッファーほど多様な仕事を経験し、多くの人と触れ合った人間を見つけ出すのはほとんど困難なのではないでしょうか。彼の人生それ自体が大変興味深く、本書を読み進めるうちにどんどんと惹き込まれていきます。

彼は「自分に正直」な人でした。独学によって博識だったホッファーは、雇い主から信頼されて何度も「定職」を用意されますが、その度に「まだ落ち着くべきではない」と感じて放浪生活に戻っています。自身の哲学を貫き通す姿に魅力を感じます。

「旅するような生き方に憧れる方」、「自伝が好きな方」にぜひおすすめしたい一冊です。

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