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【解説④】『賃労働と資本』【貧富の格差はなぜ無くならないのか?】

今回も哲学者カール・マルクスの著書『賃労働と資本』を解説していきます。

目次

『賃労働と資本』簡単解説

『賃労働と資本』は、哲学者カール・マルクスが当時自ら発行していた「新聞」に連載されていた記事を集めた書物です。

文章は平易な言葉で書かれているため非常に読みやすく、マルクスの思想を理解するための入門書としておすすめの作品です。

マルクスはこの作品の内容を、経済の専門家などではなく、労働者自身に理解してもらいたいと明確に述べています。資本主義がどのようなルールで回っていて、いかに「労働者」が「資本家」に搾取されているか、現状を知って立ち上がってほしい、と思っているんですね。

これは他人事の話ではなく、私を含めた現代に生きるサラリーマンも理解しなければならない内容であると感じます。

前回の記事では、「労働者が賃労働するということ」について見ていきました。そして、「労働者の労働によって生まれた価値(利益)は資本家のもとに蓄積されること」が明らかになりました。

今回は、「価値(利益)が資本家のもとに蓄積され、格差が増大していく過程」について詳しく見ていきます。

様々な側面から見た「賃金」

「賃金」と聞くと、皆さん何を思い浮かべるでしょうか。

サラリーマンの方であれば、「賃金」=「月給」ですよね。

本書の中では、サラリーマンの月給は「額面上の賃金」という意味で「名目賃金」と呼ばれています。

仮に3年間、毎年同じ額の月給を受け取っていれば、労働に対する一定の対価が常に支払われているように感じますよね。

しかしながら、労働者が賃金を通して得ている「価値」というのは、社会環境や所属する企業との関係によって刻々と変化しており、「額面だけを見て賃金を議論してはダメです!」とマルクスは忠告しています。

賃金の色んな側面を理解するうえで、2つのキーワード「実質賃金」「相対的賃金」が出てきます。

➀「社会環境」と「労働者の賃金」の関係

例1)税率の変化

2019年に消費税が8%→10%に引き上げられたことは記憶に新しいかと思います。

例えば生活費として税抜価格で毎月10万円使っていた人は、生活レベルが全く変化していないとしても、増税を境に支払額が2千円増えました(10.8万円→11.0万円)。

一方、増税を考慮して、そのタイミングで月給を2千円UPさせた企業は一体いくつあるでしょうか。

ほとんどありませんよね。

額面上の賃金(=名目賃金)は変わらないのに、税率の変化によって実質的に使えるお金(=実質賃金)は減っている、こういうことが社会では頻繁に起こっています。

例2)物価の変化

2021年、菅首相が音頭をとって、携帯電話料金の一斉値下げが始まりました。

元々携帯代として毎月1万円支払っていた人も、プランによっては毎月4千円程度まで支払い額が低くなりました。

特に生活レベルが変化したわけでもないのに、ある日突然、物価が変化することで毎月6千円の支払いが浮きました。

額面上の賃金(=名目賃金)は変わらなくても、物価の方が変動することによって、実質的に使えるお金(=実質賃金)は増えたり減ったりすることがあります。

「実質賃金」の概念

「税率」や「物価」の例で見た通り、毎月のお給料は変わらないにも関わらず、社会環境の変化によって頂いた給料の「交換価値」が変動しています。そこで、「貨幣と引き換えに実際に得られる諸商品の総量」で測った賃金のことを、マルクスは「実質賃金」と呼ぶことにしました。「名目賃金」と「実質賃金」は必ずしも一致せず、「実質賃金」は社会環境に応じて常に変化しています。

➁「企業の利益」と「労働者の賃金」の関係

例)所属企業の利益の変化

ある企業の今年の純利益が、前年実績の100億円から200億円に上がったとします。

企業で働く労働者(サラリーマン)の頑張りによって、1年間で利益が100億円増え、倍になりました。

仮に給料が「労働者(サラリーマン)の労働に対する純粋な対価」なのであれば、100億円の増益は労働者の労働によってもたらされたものなので、労働者の給料も倍に上昇しても不思議ではありません。

年収が500万の人であれば、倍の1000万となる計算です。

しかしながら、現実はどうでしょうか。企業のビジネスがどんなに好調であっても、労働者に対する褒美はボーナス額のちょっとしたアップのみ。せいぜい年収500万が550万円になる程度ではないでしょうか。

残りの1000万-550万=450万はどこに行ってしまったのでしょう?

それは、配当金として株主(資本家)により多く還元されたり、企業の更なる設備投資などに回っています。

「相対的賃金」の概念

労働者が生み出した価値(利益)に対して、それ相応の賃金アップが得られなった場合、労働者の賃金は「相対的に」低下したと考えられます。このように、「賃労働の価値」と「資本の価値」との割合をマルクスは「相対的賃金」と呼んでいます。労働者が頑張れば頑張るほど、資本家と労働者の格差は広がっていきます。

貧富の格差はなぜ無くならないのか?

ここまで、「名目賃金」、「実質賃金」、「相対的賃金」の3つの概念が出てきました。

  • 「名目賃金」=額面上の賃金価格
  • 「実質賃金」=貨幣と引き換えに実際に得られる諸商品の総量からみた賃金価格
  • 「相対的賃金」=賃労働の価値と資本の価値との割合からみた賃金価格

現代の資本主義において格差が広がっている大きな原因は、労働者の「相対的賃金」低下にあります。

こんなに労働者が頑張って利益を増やし続けているのに、労働者にそれ相応の対価が支払われていないのです。

生み出した利益増加分は労働者に還元されず、同じ給料でさらに多くの労働者を雇うための人件費として、さらに大型の設備投資を行うための設備費用として使われていきます。

そして、企業の利益はさらに膨らみ、さらに多くの労働者が雇われ、設備はさらに大型化し、配当金は増え続け、資本家の資産はさらに巨大化…。一方で、労働者はほとんど変わらない給料のまま働いています。

したがって、労働者の収入は資本の急速な増大とともに増大するのだが、それと同時に、労働者と資本家とを分かつ社会的隔たりも広がっていくのであり、労働に対する資本の力、資本に対する労働者の従属も大きくなっていくのである。

49ページ「賃労働と資本/賃金・価格・利潤」(光文社古典新訳文庫)

資本主義のシステムで社会が回る以上、貧富の格差が発生するのは“必然的”であり、富の格差を無くしたいのであれば社会のシステムそのものを見直す必要が出てくるように感じます。

ここまでの要点は以下の通りです。

  • 「賃金」には「名目賃金」、「実質賃金」、「相対的賃金」の3つの側面がある
  • 貧富の格差が広がる主な原因は、労働者の「相対的賃金」低下である

次回は、企業が利益を追求する(資本家の資本が増大する)ことで労働者の取り巻く環境がどう変化していくか、について考えていきたいと思います。

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