今回も哲学者カール・マルクスの著書『賃労働と資本』を解説していきます。
『賃労働と資本』簡単解説
『賃労働と資本』は、哲学者カール・マルクスが当時自ら発行していた「新聞」に連載されていた記事を集めた書物です。
文章は平易な言葉で書かれているため非常に読みやすく、マルクスの思想を理解するための入門書としておすすめの作品です。
マルクスはこの作品の内容を、経済の専門家などではなく、労働者自身に理解してもらいたいと明確に述べています。資本主義がどのようなルールで回っていて、いかに「労働者」が「資本家」に搾取されているか、現状を知って立ち上がってほしい、と思っているんですね。
これは他人事の話ではなく、私を含めた現代に生きるサラリーマンも理解しなければならない内容であると感じます。
前回の記事では、賃金はどうやって決まっているのか、についてみていきました。そして、商品である労働者の賃金(=商品価格)は、労働者の生産費(=生活費、教育費、繁殖費)によって規定されていることが明らかになりました。
今回は、賃金を貰って働く労働者「サラリーマン」の本質について考えていきます。
「賃労働をする」とはどういう意味?
マルクスの思想に基づいて言うと、資本主義社会においては、
- 労働は「商品」であり、
- 賃金はその「商品価格」であり、
- 労働者は自分の時間を商品として資本家に差し出して労働し、
- 資本家は労働者の労働を受け取る代わりに賃金を与える
という構図になっています。
得るモノ | 失うモノ | |
---|---|---|
労働者 | 賃金 | (労働)時間 |
資本家 | 労働(=生産的活動) | 賃金代 |
ここでまず重要なポイントは、労働者が受け取る賃金の「額」です。
労働者の賃金は、労働者の生産費(=生活費、教育費、繁殖費)によって規定されていることを前回記事で解説しました。
サラリーマンの月給は、ひと月の間、健康で人間的な生活を営むことができ、たまに散財してストレス発散できる程度の額に設定されているので、一旦働くことを止めてしまえば、とたんに生活を送るのが苦しくなります。
よくサラリーマンが、「仕事がつまらない」、「仕事をやめたい」とつぶやきながら、定年まで働いている姿を見ることがあるでしょう。これは「生きるためには嫌でも働くしかない」という風に、会社へ釘付け状態にされているからなのです。
一方で、資本家はどうでしょうか。
資本家は賃金を支払うことで労働者の労働時間を買い上げます。
このとき、労働者の労働よって生まれる価値は、往々にして、賃金として支払った額以上の価値となり、生まれた剰余分(=利益)は資本家の懐に入っていきます。
現代社会においてサラリーマンとして働く者には、社内で常に「イノベーション」を生むことが求められているかと思います。これは、単刀直入に言えば、「投資した額以上の価値を生んで俺を肥やせ!」という資本家の声でもあるのです。
こうやって、投資→イノベーション→投資・・・のサイクルの中で、労働者が働けば働くほど、資本家は肥えていき、格差が広がっていく、というのが資本主義社会の構図です。
資本主義は悪い面ばかりじゃない?
「資本主義社会において、労働者と資本家の格差は広がっていく運命にある」と聞くと、なんだか悪いシステムのように感じます。
実際、最近のアメリカでは、「上位1%の富裕層が保有する資産が年々増加し続けているにも関わらず、残り99%の一般庶民の収入は長い間変わっていない」ことに憤りを感じた人々が「99%デモ(ウォール街を占拠せよ)」を起こしました。
一方で、「格差の増大は悪だ!」とも言い切れないのが資本主義の複雑な面であるとマルクスは主張します。
生産にあてられる資本、すなわち生産資本がより急速に増大すればするほど、産業はますます繁栄し、ブルジョワジーはますます豊かになり、商売はますます繁盛し、資本家はますます多くの労働者を必要とし、それだけ労働者はますます自分を高く売ることができる。
したがって、生産資本ができるだけ急速に増大することが、労働者の状態がまずまずのものになるための不可欠の条件なのである。
『賃労働と資本/賃金・価値・利潤』(光文社古典新訳文庫)40ページ
資本家の資産は急速に増え続けますが、それによってさらに労働者の需要が増大し、需要と供給のバランスによって労働者の賃金が上昇し、労働者の生活レベルも着実に向上していく。
飢餓に苦しみ伝染病で多くの人々が死んでいた時代と比べると、資本主義社会の発展によってインフラやサービスが向上し、ほぼすべての人々が飢えや病気に脅えることなく、人間的な生活を営める水準にまで達しました。この事実は見逃すことができません。
格差はどんどん増大していきますが、人類全体の生活水準もベースアップしていくのが資本主義社会です。
資本主義社会の功績を考慮した上で、よりいっそう、市民全員に利益が還元されるような社会システムってなんだろう、と考えていくことがこれから必要になっていくのではないでしょうか。
ここまでの要点は以下の通りです。
- 労働者の労働によって生まれた価値の剰余分(利益)は資本家のもとに蓄積される
- 資本家は、剰余価値(利益)をさらに資本として投下し、価値を「増殖」させる
- 資本主義社会の進展によって、労働者の生活レベルも向上する
次回は、資本主義社会において貧富の差が拡大していく過程についてより詳しくみていきたいと思います。
コメント