今回も哲学者カール・マルクスの著書『賃労働と資本』を解説していきます。
『賃労働と資本』簡単解説
『賃労働と資本』は、哲学者カール・マルクスが当時自ら発行していた「新聞」に連載されていた記事を集めた書物です。
文章は平易な言葉で書かれているため非常に読みやすく、マルクスの思想を理解するための入門書としておすすめの作品です。
マルクスはこの作品の内容を、経済の専門家などではなく、労働者自身に理解してもらいたいと明確に述べています。資本主義がどのようなルールで回っていて、いかに「労働者」が「資本家」に搾取されているか、現状を知って立ち上がってほしい、と思っているんですね。
これは他人事の話ではなく、私を含めた現代に生きるサラリーマンも理解しなければならない内容であると感じます。
前回の記事では、価値(利益)が資本家のもとに蓄積され、格差が増大していく過程について見ていきました。
今回は、企業が利益を追求し続けた先の社会について、考えていきたいと思います。
企業はどのようにして「成長」するのか?
資本主義社会において、現状維持は「死」を意味します。
たとえ今、自社製品が飛ぶように売れていたとしても、数年のうちにライバル企業が模倣製品や高機能製品を開発し、気がつけばシェアを奪われてしまっているのがビジネスの世界です。
企業は現状に満足することなくシェア拡大を、日本市場が飽和したら次は海外市場へ、といった具合に販路を広げていきます。
シェアを拡大したい(=他社製品に代わって自社製品を買ってもらいたい)場合、企業はどのような手段を取るでしょうか?
代表的な方法は、製品の低価格化です。
消費者はより安く製品を買いたいので、企業は他社よりも製品をできるだけ安く販売し、買ってもらおうと努力します。
では、企業は”どうやって”製品の低価格化を実現するのでしょうか?
ここで重要となるキーワードが、「分業」と「機械化」です。
「分業」とは、製品の生産をいくつかの工程ごとに分けて、その工程ごとに担当者をつけて、流れ作業で生産する方法です(工場のライン作業を思い浮かべてください)。
「分業」にすることで、例えば一人の職人が製品を作っていた場合と比べて圧倒的に早く大量に生産することができ、製品をより安く販売することが可能になります。
また、「機械化」はどうでしょうか。
機械は毎月給料をあげなくても、律儀に、夜も眠らず稼働してくれます。初期費用はかかるものの長期間で見ると人件費より割安なので、製品の生産費が低下し、結果として安く製品を売ることが可能となるのです。
企業同士が価格競争を始める結果、「分業」と「機械化」はどんどん進んでいくこととなります。
利益を大きくしたい!
→そのためにはシェア拡大だ!
→製品を低価格化しよう!
→よし、「分業」と「機械化」だ!
→モット、モット・・・。
経済成長の先にある世界とは?
企業が「分業」と「機械化」を進めた結果、労働者は一体どのような状況になるのでしょうか。
「分業」が進む結果
「分業」が進行する結果、仕事の内容はどんどん「単純化」していきます。
- 製品に欠品が混じってないか監視する作業
- 流れてくる製品を朝から晩まで袋詰めする作業
- 製品の入った段ボールを右から左に移動する作業
熟練した技術や高度な専門知識が不要で、誰でもできるような仕事内容ばかりです。
そのような仕事内容であれば、業務をこなすという意味において、専門学校や大学で勉強する必要がありません。
ここで、マルクスの「賃金」の定義に戻ると、
賃金=労働者の生産費(生活費、教育費、繁殖費)でした。
「分業」によって労働の「単純化」が進むと、労働者の生産費(特に教育費)が下がるため、結果として労働者の賃金が低下します。
最近よく社会問題として取り上げられる「派遣社員」はまさしく「分業」の功罪です。
各企業が利益増大を求めた結果、低賃金で単純作業を行う「派遣社員」なるものが生まれているのです。
「機械化」が進む結果
「機械化」の最たる例は、「AIによる自動化」でしょう。
最終的に「派遣社員」の人件費すら惜しい企業は、工場に全自動のAI機器を導入し、人間が手作業で行っていた仕事を機械が代替していくでしょう。
この戦争の独特さは、そこでの戦いの勝敗が、労働者軍の徴集によってではなくむしろその解雇によって決せられる点にある。将軍たる資本家たちは、産業兵士をどれだけ大量に除隊させることができるかをお互いに競いあうのである。
『賃労働と資本/賃金・価格・利潤』(光文社古典新訳文庫)60ページ
ここまでの要点は下記の通りです。
- 資本が増大するに従い、「分業」と「機械化」が進む
- 「分業」と「機械化」によって労働者の生産費が低下し、労働者の賃金も低下する
次回は、これまで行ってきた「賃労働と資本」解説の総まとめをしたいと思います。
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