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【感想&解説】 『日本集合論』を読んで【日本が高度経済成長できたわけ】

今回は、『日本集合論』(内田樹)について紹介していきます。

目次

『日本集合論』簡単解説

『日本集合論』は、「日本人が持つ特質すべき能力”習合”に焦点を当てた本」です。

著者の内田樹さんは文筆家であり大学教授の方です。

本書で解説されている「習合」という概念を理解すると、日本の文化や経済がどのように発展してきたのか、理解が進むようになります。

日本人という民族の性格を知る上でも参考になる本です。

「習合」ってなに?

この本のタイトルにもある「習合」とはそもそも何なのでしょうか。

まずは「言語」を例にして考えてみます。

例えば、アメリカ人が使う言語は英語です。英語は26個の「アルファベット(A~Z)」を構成要素として成り立っています。シンプルですね。

中国人が使う言語は中国語です。

中国語は「漢字」を構成要素として成り立っています。その数は数えきれないほど多いですが、最低でも数万はあると言われています。英語と比べると急に難しくなった気がしますが、分類としては「漢字」の1つなので、まだ分かりやすいです。

それでは、日本人が使う日本語はどうでしょうか。

日本語は「ひらがな」、「カタカナ」、「漢字」を組み合わせたものです。

日本発の「ひらがな」、中国発の「漢字」、そして、外国語を輸入してくる際によく用いられる「カタカナ」。これらを我々は日々、複雑に組み合わせて使っているんです。

実は、このような国は世界中探してもなかなか見つかりません。

日本人は相容れないもの(例:外国語)と対峙した時、それを突っぱねるのではなく、とりあえずそのまま同居させておく、ということをこれまで頻繁にやってきました。このような国民性を筆者は「習合」という言葉で表現しています。

日本が「高度経済成長」できたわけ

日本人の「とりあえずそのまま同居させておく」というやり方は、江戸幕府が崩壊し、文明開化していく過程においても多く見受けられました。

例えば、ビジネスの世界で起こった例が、江戸時代の「大店システム」と欧米の「株式会社システム」の混在であると言います。

江戸時代の「大店システム」では、まだ小さい子供がお店に入り、三度の飯と読み・書き・そろばんを習いながら、店の手伝いをして仕事を覚えていきます。そして一人前になると、「暖簾分け」をして自分の店を経営していくことになります。

日本経済がそのようなシステムで回っていた時代に、欧米から「株式会社システム」がやってきました。すると日本人は、株式会社システムをそのまま真似するのではなく、資金調達のやり方は株式会社として、人材育成や商売は大店システムのままでやるというハイブリッドを選んだのです。

会社に入ったら最後まで会社が面倒を見る「終身雇用制度」、お得意先との関係を大事にする「お付き合い」、これらは江戸時代の「大店システム」の遺産です。

その後、「社員は家族」という理念を掲げる会社の中で愛社精神を灯した「モーレツ社員」が生まれていき、日本が高度経済成長していくこととなりました。

「終身雇用制」の崩壊と「派遣社員」の出現

しかし、しばらくすると日本企業の「ハイブリッドシステム」は崩れ始めます。

経済の成長スピードがどんどん加速して市場の移り変わりが激しくなっていくと、新人を社内で一から鍛え上げる時間的余裕も無くなり、また、大勢の社員を抱えるコストも見合わなくなったのです。

「終身雇用制」がだんだん維持できなくなってくるんですね。

会社は必要な時に必要なだけ即戦力を雇用し、用が終わればさようなら。そんな待遇の「派遣社員」を積極的に採用する方向にシフトしていきました。

こうなると、社員の気持ちは「会社が面倒見てくれる」から「いつ首を切られるか分からない」に変わり、愛社精神どころではなくなっていきます。

私は日本のメーカーで働くサラリーマンですが、入社して初めて「派遣社員」という存在を知りました。

そしてずっと不思議でした。

「なんで派遣社員の方々は、自分より年上で、勤続年数が長くて、技能も高いのに、自分よりも低賃金で長時間働いているのだろう…」と。「このようなことがまかり通る資本主義社会って一体なんだろう…」と。

この本を読んで気づいたのは、資本主義が「もっと早くもっと先へ」と人類を急がせた結果、経済の成長スピードがどんどん加速し、「派遣社員」が生まれてきたということです。

そして、資本主義はさらなる経済の発展(=資本の増大)を求めます。このままいくと、「派遣社員」の割合は増え続けるでしょう。

もしかすると、近い将来、正社員が一人もいない会社が生まれてくるかもしれません。「社員は全員フリーランスの契約社員です。」といった感じでしょうか。

もちろんそれは「合理的」かもしれませんが、社員が「幸せ」かどうかは怪しいです。

「豊かな暮らしを求めて経済発展を推し進めたが、気が付くと皆不幸になっていた。」

そうならないように、もう一度、日本人の”習合”能力を思い出し、日本人が心地よく働けるような新たなシステムを見出すべきなのかもしれません。

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