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【解説➀】『賃労働と資本』【賃金とはなにか?】

今回は哲学者カール・マルクスの著書『賃労働と資本』を解説していきます。

目次

『賃労働と資本』簡単解説

『賃労働と資本』は、哲学者カール・マルクスが当時自ら発行していた「新聞」に連載されていた記事を集めた書物です。

文章は平易な言葉で書かれているため非常に読みやすく、マルクスの思想を理解するための入門書としておすすめの作品です。

マルクスはこの作品の内容を、経済の専門家などではなく、労働者自身に理解してもらいたいと明確に述べています。資本主義がどのようなルールで回っていて、いかに「労働者」が「資本家」に搾取されているか、現状を知って立ち上がってほしい、と思っているんですね。

これは他人事の話ではなく、私を含めた現代に生きるサラリーマンも理解しなければならない内容であると感じます。

「賃金」とはなにか?

本書でマルクスはまず、「賃金とはなにか分かりますか?」、 「我々が毎月会社から頂く給与の意味を説明できますか?」 と読者に問いかけることから始めます。

例えば、月20万の給与をもらうサラリーマンがいるとします。

毎月の労働日数は約20日(週5日×4週)なので、1日(8時間)あたり約1万円の賃金になる計算です。つまり、会社は労働者一人の8時間に対して約1万円を支払っていることになります。

当たり前のようで、実はここが盲点なのです。

我々サラリーマンは、なんだか毎月「一定額」の給与をもらっている感覚になっていますよね。

しかし、突き詰めると、会社が与える賃金の本質は「時間給」であり、サラリーマンの「生命時間」に対して賃金が発生していることを認識しなければなりません。

サラリーマンは自分の生命時間を切り売りして賃金をもらい、会社は賃金を支払うことでその生命時間を購入しています。

マルクスは賃金について、「労働(時間)という“商品”に支払われる価格」と表現しています。

それゆえ賃金は労働の価格につけられた、すなわち、他ならぬ人間の肉と血を容器とするこの独特の商品価格につけられた、特殊な名前にすぎないのである。

『賃労働と資本/賃金・価格・利潤』(光文社古典新訳文庫)16ページ

会社の利益は労働者に還元されるのか?

「賃金は労働(時間)という商品に支払われている」ことを理解すると、資本主義についてさらに理解が進んでいきます。

会社はなにかの製品を生産して商売する場合、まず原材料と工場設備を調達してきます。しかし、これだけでは何も新しい物を生み出すことができません。

ここで、労働者一人当たり約35年分(入社から定年までの勤務年数)の労働時間を同時に購入します。そして、その労働力と、原材料と、工場設備を使い、製品を生産し販売します。

重要なことは、「製品を生産・販売する以前に、既に労働力の購入を終えている」という点です。労働者を一人雇い入れた時点で、会社はその人の約35年分の給料(サラリーマンの生涯給与は2億円とも言われる)の支払いを覚悟するわけです。

したがって、形式としては労働者に毎月賃金(給与)を払いますが、それは「労働者という商品を減価償却している」に過ぎません。

仮に製品が売れずに利益が出なくても、労働者の給与が半分になることはありません。一方で、製品が飛ぶように売れて利益がたくさん発生しても、その利益は労働者の利益にはなり得ないという事です(なぜなら、会社は労働者を35年ローンで機械的に原価償却するだけだから)。

もちろん、労働者は労働組合を通じて、会社側と毎年「ボーナスを何か月分にするか」について交渉を行うので、労働者に対しても利益が分配されているように感じるかもしれません。

しかし、利益の大半は会社の株を持っている株主(資本家)に配当金として分配されていること、結局潤っているのは資本家なんだよということを理解しておかなければ、「知らぬ間に搾取され続ける人生になるよ」とマルクスは警告しています。

なぜ人々は進んで身売り(就職活動)するのか?

会社が得る利益のおこぼれを貰えないにも関わらず、労働者が率先して自らの生命時間の(8時間/日)を切り売りするのはなぜでしょうか。

それは、生きるためです。

例えば、江戸時代の村社会を考えてみましょう。当時の人々は、先祖代々の家と土地があって、ささやかな農業を営んでさえいれば、水は近くの井戸で汲み、不足している物は近所同士で交換するなどして、不自由なく生きていくことができました。

満員電車に毎朝乗って出勤し、タイムカードで時間管理されながら決まった時間働かなくてもよかったのです。

しかし、明治政府が行った「地租改正」を起源として土地などに所有権が認められ始めると、土地・農地が資本家に買い上げられ、家賃を払うため、食料を買うために人々は働かざる得なくなりました。

資本主義は人々を土地から解放し「職業選択の自由」を与えました。一方で、生きていくために好きでない仕事もせざるを得なくしました

マルクスはこのように「賃労働と資本の関係」を鮮やかに描き出していきます。

ここまでの要点は以下の通りです。

  • 労働は「商品」である
  • 賃金は、労働者の労働時間に対して支払われている
  • 労働者は、生きるために、自らの時間を差し出して賃金と交換する

次回は、労働者の賃金がどのように決まっているかについて考えてみます。

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