『身銭を切れ』という本が、人生訓に満ちた作品でした。
『身銭を切れ』簡単解説
『身銭を切れ』は、「リスクを転化し合う現代社会を揶揄しながら、言動・行動に責任を持つ(=身銭を切る)ことでしか優れた仕事は成し遂げられないと強く主張している本」です。
本書の著者であるナシーム・ニコラス・タレブは、文筆家、トレーダー、大学教授などの多様な顔を持つ哲学者です。
著者は金融取引のトレーダーとして働きながら確率論の研究なども行い、ビジネスと学術分野の両面で優れた実績を挙げています。
本書では「顧客の金で資産運用し破産する銀行家」、「実社会でビジネスをしたことがない経済学者」などを皮肉りながら、「社会が進歩するために身銭を切ることが必要な理由」が述べられていきます。
「身銭を切る」とは?
「身銭を切る」とはどういう意味でしょうか。
「身銭を切る」とは、「行動で示すこと、口だけにならないこと、犠牲を払うこと」などと言い換えることができます。
本書で紹介されている「身銭を切っている人々」とは、例えば、
- 失敗するリスクを負ってビジネスを始める起業家
- 自分の腕でお金を稼ぐ職人
- 実験やフィールドワークを通して研究活動する専門家
一方で、「身銭を切っていない人々」とは、
- 助言だけして行動はしないコンサルタント
- 経営方針だけ作ってあとは現場に任せる企業幹部
- 理論をいじくり回すタイプの専門家
「行動する者」と「その行動によってもたらされるリスク・利益を受ける者」が一致するとき、その人は「身銭を切っている」と言うことができます。
「身銭を切る」ことの重要性
では、なぜ「身銭を切る」ことが重要だと筆者は述べているのでしょうか。
本書では次のような理由が挙げられています。
- 「身銭を切る」ことで社会は進歩する
- 「身銭を切らない人」は社会に大きな悪影響を与える
- 「身銭を切らない人」は嘘っぽい
「身銭を切る」ことで社会は進歩する
人類は何百万年もの長い間、厳しい自然環境や外敵の攻撃に耐えながら、ここまで生き抜いてきました。
なぜ、人類はここまで生き残ることができているのか。それは、環境適応できなかった人が死に、環境適応できた人が生き残って、その知恵が引き継がれてきたからです。
この自然淘汰のメカニズムが機能するために必要だったのが「人間の死」、つまり、「身銭を切ること」でした。
身銭を切るという行為は、抑止力というよりもこのふるいに近いと私は考えている。そして進化は、絶滅リスクが存在しないかぎり起こりえないものなのだ。
『身銭を切れ』(ダイヤモンド社)38ページ
「人類の進化」は大げさな一つの例ですが、「身銭を切る」ことが伴わなければ、「社会の進歩」や「経済成長」も達成されないと筆者は主張しています。
「身銭を切らない人」は社会に大きな悪影響を与える
筆者は「身銭を切っていない人々」として次のような人々を挙げ、社会に大きな悪影響を与えかねないと言及しています。
- 助言だけして行動はしないコンサルタント
- 経営方針だけ作ってあとは現場に任せる企業幹部
- 理論をいじくり回すタイプの専門家
なぜ、社会に大きな悪影響を与えかねないのか。それは、
- もし彼らが仮に”ペテン師”だったとしても、破産するリスクを負っていないのでシステムから排除されず、
- システムの中に居続けるがために、何度も誤った指示・助言を出し、悪影響を被る人の数が増え続ける
からです。このような事態を防ぐためには、彼らの言動が間違っていた時、彼ら自身が責任を取る(身銭を切る)ようなルールが必要になります。
言動・行動に責任を持たせることで、初めて自然淘汰の原理が発動し、社会は進歩していくのです。
「身銭を切らない人」は嘘っぽい
第一に、「口先だけで行動が伴っていない人」、「リスクを取って行動していない人」はなんだか”うさんくさい”ですよね。
筆者は、「身銭を切っている人(ホンモノ)」と「身銭を切っていない人(ニセモノ)」を見分ける方法を提唱しています。
傷跡は身銭を切っていることを示す一種のシグナルである。
『身銭を切れ』(ダイヤモンド社)213ページ
「何かに挑戦して失敗した過去がある人」は「失敗経験が無い人」よりも信頼できる、と筆者は言います。
なぜなら、失敗経験がある人は、リスクを負って行動したことを示す紛れもない証拠だからです。さらには、
外科医は外科医っぽくないほうがいい。
『身銭を切れ』(ダイヤモンド社)第9章
「医者っぽくない」医者は、「医者っぽくない」というハンデにもかかわらず 、しっかり実績を残して生計を立てていることになります。
逆に、見た目や口調がいかにも「医者らしい」医者は、「医者らしい」というその雰囲気だけで、信頼感を得ている場合があるのです。
どちらか一人を選べと言われたら、「医者っぽくない」医者がより”ホンモノ”である可能性が高いでしょう。同様に、
- 政治家っぽくない政治家
- ビジネスマンっぽくないビジネスマン
- 科学者っぽくない科学者
を見つけたら、その人はよりホンモノである可能性が高いかもしれません。
さいごに
社会貢献がしたいです!
著者にこのような人生相談をしたら、おそらくこう答えるでしょう。
では、身銭を切ってください。
「身銭を切る」とはつまり、「失敗するリスクを負って行動すること」、「言動・行動に責任を持つこと」でした。
行動が伴わなければ何かが生まれる可能性はありませんし、もし失敗しても、その失敗経験は人類が叡智の積み重ねとなります。
なにも行動せずに外野から野次だけ飛ばす人々とは、明らかに一線を画すでしょう。
挑戦する人々を席で眺める「観客」ではなく、常に「プレーヤー」として人生を全うしたい。本書を読んで、私はそう感じました。
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