今回は、大ベストセラー書籍『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ラハリ)についての解説・感想記事となります。
『サピエンス全史』簡単解説
『サピエンス全史』は、人類誕生から今日にいたるまでの「人類の歴史」を時系列で網羅した壮大な作品です。
本書は次のような流れで進行していきます。
- 認知革命:我々の祖先「ホモ・サピエンス」の繁栄
- 農業革命:農耕文化が我々にもたらしたもの
- 人類統一:グローバル化(帝国・貨幣・資本)
- 科学革命:テクノロジーは我々を幸せにするのか?
人類誕生から現代までの歩みを一気通貫で振り返ることで、「なぜ今日のような社会が形成したのか」を学ぶことができます。
また、単に人類の歴史について知るだけでなく、社会の見方や考え方が変わる「哲学書」としても読めるおすすめの一冊です。
すべては「フィクション」である
私が本書を読んで一番印象に残ったのは、「今世界中で叫ばれている『経済成長』、『技術革新』、『消費促進』といったものは、実は全部フィクション(作り物の話)かもしれない」というメッセージです。
このメッセージを解釈していく前に、まずはフィクションの代表例とされる”宗教”について考えてみます。
株式会社=宗教法人
宗教は、「神または何らかの超越した絶対者に対する信仰」と定義されます。
宗教にはそれぞれの教え「聖典」があり、教えを告げる「教祖」がいて、教えに従う「信者」がいて、信者が集まる「場所」がありますね。
例えばキリスト教について見てみると、「聖典=聖書」であり、「教祖=イエス・キリスト」であり、「教えを守るキリスト教信者」がいて、「信者が集まる教会」があります。
続いて、この宗教の特徴を現代の”株式会社”に当てはめたらどうなるか考えてみましょう。
株式会社の「聖典」は何でしょうか。それは”成長戦略”や”ありたい姿”などが描かれた「ビジョン」です。
株式会社の「教祖」は誰でしょうか。それはビジョンを語る「CEO」です。
教えに従う「信者」は誰でしょうか。それはビジョンに共感してその会社に入社(=入信)した「社員」です。
信者が集まる「場所」はどこでしょうか。それは社員が集まる「オフィス」です。
まるでキリスト教の「聖書」に心酔した人が洗礼を受けてキリスト教信者になるように、現代社会ではGoogleの「ビジョン」に共感した人が入社試験を受け、社員として働き始めます。
キリスト教の聖典である「聖書」では人間の行動指針として”同性愛”などが禁じられていますが、株式会社の聖典である「ビジョン」では”現状維持”などが禁じられています。
どちらの聖典でも、それが”なぜ”禁じられているのかについては考えないことになっていますね。
そもそも会社がなぜ成長を続けなければならないのかという問いを立てず、それでも毎日出社して働く我々は、まるで株式会社という”宗教団体”に所属する信者のようです。
現代社会を覆うフィクション
株式会社=宗教法人という見方で社会を見渡せば、「今世界中で叫ばれている『経済成長』、『技術革新』、『消費促進』といったものは、実は全部フィクション(作り物の話)かもしれない」というメッセージの意味が感じられるようになってきます。
多くの株式会社に共通の「ビジョン」(=聖典)として書かれている『経済成長』、非連続な成長を遂げるための『技術革新』、経済を回すための『消費促進』…。
我々はこれらを達成するために毎日汗水垂らして働いていますが、その理由は、「ビジョンにそう書いてあるから」です。それ以上でも以下でもありません。
資本主義社会においては「資本の増大」こそがすべての原動力ですが、資本を増大させるためのフィクションとして 『経済成長』、『消費促進』、『技術革新』 が語られ、我々はそれを信じて日々生きていると言われても、なかなか反論できないのではないでしょうか。
すべては、物語を語ることと、人々を説得してその物語を信じさせることにかかっていた。
『サピエンス全史 上』(河出書房新社)47ページ
実際に、『お金2.0』という本の著者でベンチャー起業家の佐藤航陽さんは、上記の内容に近い発言をされています。
グーグルやフェイスブックのような企業が多くの優秀な人を惹きつけられるのは、彼らが最高レベルの給与と福利厚生とブランドを持つというだけでなく、そこで働く人たちに人生の意義や目的を提供していることが大きな要因だと私は思っています。
『お金2.0』(幻冬舎)218ページ
まさしく宗教の役割ですよね。ビジネスの最前線で働いている人の肌感としても、株式会社=宗教法人というのは割と正しいみたいです。
『経済成長』、『消費促進』、『技術革新』がすべて「フィクション」であるという考え方は、非常に的を得た解釈の仕方だなと思いました。
さいごに
今回は、 『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ラハリ)について紹介しました。
冒頭でも述べた通り、 本書は単に人類の歴史について書いた歴史書としてだけでなく、社会の見方や考え方が変わる「哲学書」としても読める本となっています。
「なんでこんなに毎日働いているんだろう」、「なんで社会は今日の形になったんだろう」、と疑問に感じる方は、本書の中に答えが見つかるかもしれません。
ぜひ手に取って一読してみて下さい。
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