『わが闘争』簡単解説
『わが闘争』は、「独裁者として知られるナチス・ドイツの総統ヒトラーが、自身の政治的世界観を綴った自伝」です。
ヒトラーは第二次世界大戦下のドイツを率いた政治家です。ユダヤ人の大量虐殺を主導した独裁者として歴史に名が刻まれています。
本書はそんなヒトラー自身が書いた自伝であり、「彼がどんな政治思想を抱いていたのか」、「なぜ大量虐殺が起こってしまったのか」を垣間見ることができます。
歴史を多角的な視点で見るためにも、本書は”必読の書”と言えます。
反ユダヤ的思想の形成
ヒトラーと言えば、第二次世界大戦においてユダヤ人を大量虐殺(ホロコースト)したことでその名が知られています。
「ユダヤ教を信仰する人々」と一般に定義される。独自の民族国家としてイスラエルが存在するが、ユダヤ人は移民として世界各地でも多く生活している。
当時、ドイツでは数百万人ものユダヤ人が、強制収容所などに押し込められて毒ガスで虐殺されました。
一体なぜ、ヒトラーはこのような大量虐殺を主導したのでしょうか。彼は、ユダヤ人に対して異常なまでの「嫌悪」を示していました。
新聞、芸術、文学、演劇における活動をわたしが知ったとき、わたしの目に映ったのは、ユダヤ人がもっている重荷であった。(中略)
当時わたしは公の芸術生活のこの不潔な作品の創業者の名前を全部、注意深く調べはじめた。結果は、ユダヤ人に対してわたしがいままでとっていた態度にとって、いっそう悪いものであった。
『我が闘争』(角川文庫)88ページ
ヒトラーは当時の新聞記事や文学作品などに対して、様々な”いらだち”を感じていました。「なぜこんなにも低レベル(中身がない)のか」、「なぜこんなにも下品なのか」等々…。
ヒトラーはそれらの作品を詳しく調べるうちに、「作者にユダヤ人割合が極端に高いことに気づいた」と言っています。そして、「このような低レベル、下品な作品を世にばらまいてドイツ国民全体を凋落させているユダヤ人は悪だ!」という結論を導きました。
本当に当時の作品群が”低レベル”だったのかどうかは検証の余地がありません。一方で、私はヒトラーの「極めて不寛容な性格」こそが「ユダヤ人=悪」という結論を導いた原因のように感じました。
例えば、本書の中に次のような記述があります。
そしてわたしは、わたしが愛するもののためだけ戦う。わたしは尊敬するものだけを愛し、少なくとも知っているものだけを尊敬するのである。
『わが闘争』(角川文庫)57ページ
この言葉からは、「わたしが知らない(理解できない)ものは全て敵である」という彼の不寛容な性格が滲み出ています。実際に、ヒトラーは異なる意見を有する政治家などに対して「ペテン師」や「クズ」などと言った強い言葉で、同じ人間ではないような形容の仕方をしています。
彼の性格をしてみれば、「低レベル、下品な作品の作者にユダヤ人が多かった」という分析から「ユダヤ人=悪」という結論を導き出したとしても、なんら不思議ではありません。
極端な「選民思想」
ヒトラーが「ユダヤ人=悪」という結論を導き出したとしても、それは「個人的な感情」レベルの考えであって、「ユダヤ人の大量虐殺」の動機としては論理の飛躍がありすぎるように感じます。
一体なぜ、ヒトラーは「大量虐殺」という選択に至ったのでしょうか。それは、彼の「選民思想」にありました。
人類の進歩は、終わりのないはしごを登るのに似ている。まず下の段を踏まねば、上の段に達することはまったくできない。
『わが闘争』(角川文庫)383ページ
ヒトラーは、「自然選択によってこそ人類は進歩する」と考えていました。これは、「闘争によって弱い民族が滅び、強い民族が生き残って繫栄する結果、全体として人類は進歩する」という考え方です。
ヒトラーはユダヤ人に対して「低レベル、下品」といったレッテルを貼っていたため、「ユダヤ人は滅びるべき民族であり、ドイツ民族こそが崇高な人種である」、「ユダヤ人の血が混じるとドイツ民族が劣化する」と本気で考えていました。
また、ヒトラーは『国家』というものを『同一民族の集合体』と捉えており、「ユダヤ人はドイツ国内から排除せねばならない」と考えました。
「反ユダヤ的思想」と「選民思想」が掛け合わさることによって、「ユダヤ人の大量虐殺」という前代未聞の悲劇が起こってしまったのです。
さいごに
第二次世界大戦下のナチス・ドイツで起こった出来事は、現代でいう「〇〇ファースト」が暴走した例のように感じます。
例えば、アメリカ前大統領のトランプ氏は、「アメリカファースト」を掲げてメキシコとの国境に壁を建設しようとしたりしていました。
「自分たちだけ助かればいい」という考え方は、行き過ぎると、「部外者は排除せよ」、「弱者は見捨てよ」といった思想に繋がりかねません。
歴史を繰り返さないためにも、批評的な観点で本書を読む価値は大いにあると思います。
もし本記事を読んで気になった方は、一度手に取って読んでみて下さい。
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