『冒険の書-AI時代のアンラーニング』読了。これからの「学び」のあるべき姿が語られた、常識を一変させてくれる本でした。
『冒険の書-AI時代のアンラーニング』簡単解説
『冒険の書-AI時代のアンラーニング』は、「旧来的な詰め込み型の学校教育を考え直し、AI時代における学びのあるべき方を説いた本」です。
著者の孫泰蔵さんは、スマホゲーム『パズドラ』を運営するガンホー・オンライン・エンターテイメントの創業者であり、現在はベンチャー投資家などとして活躍されています。
投資家として最先端のAI企業と関わるうちに、「AIがものすごいスピードで進化し社会構造が変化すると、学校教育は本当にナンセンスなものになってしまう…」と危機感を感じ、本書を執筆されました。
「教育関係の仕事に就いている方」はもちろんのこと、「学校教育システムに疑問を感じてきた方」にも読んでほしい一冊です。
学校教育はいつ、どのように始まったのか?
『教育』の必要性が唱えられた時代
まず始めに、私たちが当たり前に通ってきた学校教育がいつ、どのように始まったのか、歴史を辿ってみましょう。
学校教育のルーツは、1600年代のヨーロッパを生きた「ヨハン・アモス・コメニウス」という人物まで遡ります。
当時のヨーロッパでは戦争が絶えませんでした。カトリック教の各宗派が信条を押し付け合って三十年戦争が勃発しており、ドイツでは人口が三分の一にまで減少したといいます。
コメニウスはこの戦争で妻と子を失い、絶望の中で「一体どうしたらこのような醜い争いが無くなるのだろうか」と考えました。そして、「世界が平和になるためには、青少年を正しく『教育』し、世界のあらゆることを教えることで、他人に理解を示すことができる立派な人間を養成しなければならない」という結論に達しました。
コメニウスは現在の教科書や絵本、百科事典のとなった『世界図絵』(1658)をつくり、彼の思想は現代教育の礎となっています。
『学校』というシステムのルーツ
時代を経て、子供達を効率的、かつ、きちんと教育するシステムが確立したのは、産業革命真っただ中のイギリスにおいてでした。
当時のイギリス政府は、子供を効率的に教育するために『学年制』を採用し、「同年齢の子供たちが同じカリキュラムで教育する」という、現代的な教育制度を構築します。
また、教育学者サミュエル・ウィルダースピンが唱えた『ギャラリー方式』を組み入れ、「部屋に子ども達が座って並び、正面にいる教師から一斉に授業を受ける」という、現代の「教室」が生まれました。
さらに、ジョセフ・ランカスターが唱えた『クラス』の考え方を取り入れ、「学力別に生徒たちをグループ分けして教育する」という方式が採用されました。
産業革命真っただ中のイギリスが、まるで教育された子供たちを”生産”するかのような効率化されたシステムを生み出したのも、なんとなく想像ができますね。
現代の学校教育がAIによって「全否定」される?
ここまでの内容を一度整理します。戦争が絶えなかった1600年代、ヨハン・アモス・コメニウスは次のように考えました。
そして、時代を経て、産業革命真っただ中のイギリスで次のような学校教育システムが確立しました。
- 学年制:同年齢の子供たちが同じカリキュラムで教育する。
- ギャラリー方式:部屋に子ども達が座って並び、正面にいる教師から一斉に授業を受ける。
- クラス:学力別に生徒たちをグループ分けして教育する。
現代の学校教育は「世界のあらゆることを教える」ために「極限まで効率化」された「詰め込み型」の制度と言えます。
しかし、AIが台頭している今、このような教育の意義が失われようとしています。
「世界のあらゆること」は、Googleで検索すればいつどこでも瞬時に知ることができますし、AIはネット上の膨大データを自動で取捨選択し、私たちが求める答えを提供してくれます。わざわざ一つ一つ知識を”覚える”必要は、もはやありません。
たくさんの知識を詰め込み、処理能力が速い、優秀な人間は、真っ先にAI(人工知能)に取って代わられてしまう存在なってしまったのです。
そのそも人工知能は人間よりはるかに性能が高いし、その性能を常に自分でアップデートできるならば、もはや「人口知能化した機械」の前に「機械化した人間」はただひれ伏すしかありません。
『冒険の書-AI時代のアンラーニング』(日経BP)119ページ
こらからの「教育」のあるべき姿
近い将来、AIが社会の広い範囲で実装され始めると、「『知識の豊富さ』や『論理的思考力』が人間にとってあまり重要でないと認識される時代が到来する」と筆者は予見しています。
コメニウスは1600年代に、「世界のあらゆることを教えるための教育が必要である」と考えました。しかし、ありとあらゆることを知識として覚える必要が無くなった今、私たちは教育の存在意義そのものを見直さなくてはいけません。
これからも人間に求められ続けること…。その一つとして、筆者は「これまでの知識の延長線や常識を超えた、創造的なアイデアや視点を生み出すことで、世界をより良い方向に導くこと」を挙げています。
従来の知識の延長戦や常識を超えた発想というのは、往々にして「異なる点と点を結ぶ」ことで生まれてきました。様々な人々や世界と触れ合い、異なる考え方や文化を吸収しそれを組み合わせることで、AIからは出てこないような発想に繋がると筆者は述べます。
まさしく、この一言に尽きると思います。
これからの教育に求められるのは、「知識の詰め込み」ではなく、「興味を刺激し、視野を大きく広げてあげること」ではないでしょうか。
以上、本記事では『冒険の書-AI時代のアンラーニング』を紹介しました。
「教育現場に携わる方」はもちろんのこと、「現代の教育システムに疑問を感じたことのある方」はモヤモヤが晴れるような本と思いますので、ぜひ読んでみて下さい。
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